豊原功補と小泉今日子が映画初プロデュースを務めていることでも話題の映画『ソワレ』が8月28日に公開された。偶然出会い、ある事件をきっかけに始まった、青年と若い女性の逃避行を綴る本作の主演は村上虹郎(芋生悠とのW主演)。2014年の映画『2つ目の窓』での主演デビュー以降、他にない存在感で走り続ける村上が、本作でも観客の目をくぎ付けにする。
役者になる夢を持ちながらも鳴かず飛ばずの毎日を送っていた翔太を演じた村上が、かつては身を任せていた感情的なシーンも、“新しいステージ”に入った今は、「自覚的でなければならない」とコントロールのもとで演技していること、最初はそれほど興味を持っていなかった役者業への思いの変化などを語った。
■無自覚な人物を自覚的に演じる
『ソワレ』はとても重厚感のある映画です。決して明るい作品ではないけれど、ただ暗いわけではなく、光はある。こういう世界があるんだと気づかせてくれます。僕が演じた翔太はとても愚直で、いろいろなことに対して無自覚。そこを、演じる側としては自覚的にやらないといけないと思いました。
今回、そこを特に意識しましたが、この“自覚的に”というスタンスは、どの役を演じているときもそうでないといけないと思っています。芝居をしていて「あの時の記憶がない」みたいな、いわゆるゾーンに入るといったこともないことはないし、それはそれでかっこいいけれど、でも僕は、それってダメでもあると思うんです。計算してその上にいかないといけないのに、飛んじゃっているのだと。
■“やってやったぜ感”から新しいステージへ
翔太の感情が爆発するシーンも、コントロールしています。当然難しいです。役に生きることに集中して飛び込むことのほうが楽だし、タガを外せば“やった気”にはなるんです。「おれ、イケたっしょ」みたいな(笑)。でもそれが結果的にいい芝居になっているかは別なんです。もしかしたら自分の中でも、“やってやったぜ感”ではなく、自覚的であることの、新しいステージに入っているのかもしれない。それは舞台の経験も大きいのかなと思います。
僕らの仕事は数値化できない。タガが外れていようがいまいが、限界突破していようが冷静だろうが、数字として分析できるわけではない。自分がOKだと思っていなくても監督がOKを出すこともあるし、でもそれをお客さんが違うと思うこともある。だからこそ、自覚的に、コントロールする必要があると思います。
■現場に飛び込んで、映画という文化に惹かれた
翔太は売れない俳優で、世に出たいと思っています。一方、僕は河瀨直美監督の映画『2つ目の窓』で主演デビューしましたが、俳優という仕事を目指していたわけでも、すごく好きだったわけでもありませんでした。通っていた学校(シュタイナー学園)の教育スタンス上、メディアが禁止だったので、そもそも映画もさほど観ていませんでしたし。
父(村上淳)の繋がりから、今回、アソシエイト・プロデューサーを務めている小泉今日子さんだったり、竹中直人さんや廣木(隆一)組の方々などには、子どもの頃から面識はありました。それこそ河瀨監督も。でも顔は知っていても、その人たちがどんな思いで、何をどう作っているのかは、何も知らなかったんです。そこから飛び込んで、映画を、現場を知った。僕は、俳優業に惹かれたというより、映画という文化に惹かれたんです。
■俳優業にハマったのは、悔しかったから
それが、役者そのものにハマっていった。理由は悔しかったからです。出来上がった映画で自分を見て、「なんだこいつ、下手くそだな、サイテーだな」と思ったんですよ。それで「次やったら、もうちょっとよくなるはずだ」と。一番ダメなやつです。ギャンブルと一緒。「次はイケるでしょ」みたいな(笑)。
今もまだまだですが、10代から20代に入って、俳優として少しは作品を重ねてきました。でも、その気持ちは変わらないです。毎回自分を見て「サイテーだな」と思いますね。勉強のためと取材のために、自分の作品を観るようにしていますが、本当は見たくないです。悔しくなるだけなので(笑)。
■「誰々と共演だ!」と単純にミーハー心がうずく
「次こそは」という気持ちもそうですが、俳優という仕事にハマっていったのは、魅力的な人たちとの出会いも大きいです。僕は本当に現場に恵まれているので。そうした方々との出会いから、「この世界って面白いな」と自然に思うようになっていきました。あとはミーハー魂も大きい。
僕は芸能一家出身のように言われますが、僕の半分くらいは生まれ育った“田舎”で構成されているので、ミーハー心もしっかり植え付けられているんです。だから今でも「うわ、誰々と共演だ! 会える!」と単純に思ったりしています。まあ、そういう感じは隠しますけど(笑)。
■高校時代の留学は、自分にとって逃避行だった
今は海外にも興味があります。翔太とタカラ(芋生)は逃避行することになりますが、僕も逃避行と言えるような経験があるんです。高校時代に留学して。あれは、いわば逃避行ですね。親のすねをかじった超贅沢な逃避行。日本という国から、自分の社会から逃げたんです。大義も夢も目標もなかった。
英語もギリギリそこで暮らせればいいレベル。だいたい話せるわけないんです。日本語でも話せないのに。国語力がないのに自分の意見を言えるわけがない。今になって国語や文学を学んでいます。次に海外に行ったら、価値観も宗教も含めて、違いについて語り合いたい。だから今度は、もっと自分のレベルを上げてから行きたいと思っています。言ってしまえば役者業だって、すべて国語、文学、人間学に繋がっていると思いますね。
(C) 2020ソワレフィルムパートナーズ
■プロフィール
村上虹郎
1997年3月17日、東京都生まれ。2014年、河瀨直美監督の『2つ目の窓』でデビューし、映画初主演を果たす。これまで、『ディストラクション・ベイビーズ』『武曲 MUKOKU』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『ハナレイ・ベイ』『銃』ほか多数の作品に出演。公開待機作に『燃えよ剣』『佐々木、イン、マイマイン』などがある。
望月ふみ
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村上虹郎、自分を見て「下手くそ」「サイテー」失望の先にあった原動力 - マイナビニュース
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