その規模や知名度などから、日本においてホテルの代名詞的な存在とされてきたのが「プリンスホテル」だ。コロナ禍前のデータであるが売上高ランキングでも2021億円とダントツの1位。2位の共立メンテナンス(ドーミーインなど運営)1415億円、3位のアパホテル1008億円を大きく引き離している(綜合ユニコム:レジャー産業資料「レジャー&サービス産業総覧2020『企業売上高ランキング』」)。
都市部を中心にリゾート地への進出も目立ち、北海道から九州まで計49施設を擁する。周知性という点からプリンスホテルをひもといてみると、バブル華やかなりし頃の“赤プリ”やスキーブームの万座・苗場といったリゾートにはじまり、著名人の結婚式や年末のディナーショーでも話題になるなど、トレンドや世相とも深く関わってきたホテルブランドといえる。
都市部でも宿泊をはじめ、レストランの利用や結婚式、宴会といったシティーホテルの代表的なサービスも提供することから、利用したことのある方も多いのではないだろうか。ゆえにイメージにおいて“身近なホテル”と表せるかもしれない。しかし、プリンスホテルのイメージを友人や知人に聞いてみると「ラグジュアリーなハードルの高さより、何かと使い勝手の良いホテル」という反応が目立つ。
コロナ禍で大打撃を受け続けているホテル業界、プリンスホテルも同様だ。親会社である西武ホールディングス(HD)の2021年4〜6月期の連結決算は、最終損益が88億円の赤字で5四半期連続の赤字となった。プリンスホテルでいえば、2020年最初の緊急事態宣言時に比べると、リゾートを中心に回復の動きも見られるものの、依然として厳しい経営状態は続いている。
最近、「ザ・プリンス パークタワー東京」などを筆頭に、国内のホテル・レジャー40施設程度を対象とする売却に向けた動きがニュースになった。これからのプリンスホテルについて気になる動きだ。知っているようで知らないということは世間一般でよくあることだが、それはプリンスホテルについても同様だろう。
今回はプリンスホテルについて深掘りする。とはいえ、規模の大きなブランドだけに、シティーからリゾートまで全てを網羅することはスペース的にも難しいので、今回は東京を中心としたシティーホテルとしてのプリンスホテルにフォーカスしつつ書き進めたいと思う。
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ブランド浸透への課題
東京を中心とした首都圏のプリンスホテルについて、同社では「東京シティエリア」「東京都市圏エリア」と区分している。
前者は先述した「ザ・プリンス パークタワー東京」をはじめとした、品川や高輪・芝公園といったまさにプリンスホテルをイメージするエリアの施設であり、後者は「新宿プリンスホテル」「新横浜プリンスホテル」「川越プリンスホテル」「サンシャインシティプリンスホテル」といったターミナルや郊外都市に点在する施設に分けられる。
都市圏エリアは、生活圏・生活の延長にある“コミュニティーホテル”という位置付け。他方シティエリアは、“生活圏を超えて非日常感をイメージさせるホテル”とされ、担う役割も違う。
ところで、先ほどからホテル名について「ザ・プリンス」「プリンスホテル」といった書き方をしているが、プリンスホテルと一口に言ってもさまざまなブランドがある。このようなチェーンの中でカテゴライズしたものを“サブブランド”ともいうが、プリンスホテルでいえば上位カテゴリーから「ザ・プリンス」「グランドプリンスホテル」「プリンスホテル」が主幹3ブランドということになる。
また、最近では機能性や利便性を追求した宿泊特化型タイプの新ブランド「プリンス スマート イン」も展開している。
そもそも、基幹3ブランドの“ブランド化”がなされたのが07年。過去、紆余曲折を経てきたプリンスホテルであったが、ブランド化は“新生プリンスホテル”という積極的な情報発信における主要戦略として位置付けられた。
そもそも従前のプリンスホテルは、「プリンスホテル」という“1ブランド”しかなかった。その後の上述のように3ブランド化したわけだが、今でも「分かりにくい」などさまざまな意見があるようだ。とはいえ、価格帯や用途もさまざまだった複数のホテル=1ブランドだったものが、カテゴライズされ多ブランド化するのは至極自然の流れであった。
多ブランドということは、当然クラスによってベッドのメーカーにはじまりサービスのレベルも変わることになる(変えなければならない)。一方でコンセプトや調度品、サービスマニュアルなどを作ることはできたしとても、ブランドを浸透させていくのは別の話だ。実際に現場へ落とし込み、ゲストに認知されるまでには相当な時間を要するのは何もプリンスホテルに限った話ではない。
プリンスホテルの3ブランドの認知はいまだ途上であるともいえる。それは、伝統的に“プリンスホテル”としてのイメージが強い有名施設があることも一因だろう。「品川プリンスホテル」「軽井沢プリンスホテル」「苗場プリンスホテル」といったプリンスホテルのイメージをリードしてきた施設だ。そんなプリンスホテルに対する一般的なイメージをどう変化させ浸透させていくのかは今後の課題といえる。
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品質改善で着目した「食」と「デザイン」
1ブランド時代の伝統的なプリンスホテルのイメージは、ある種ブランドとして確立されていたように思う。多ブランド化に際しては、「イメージがバラバラになってしまうのでは?」と危惧する声も当時ホテル内にあったという。
多ブランド化によって先行投資も含めた品質改善は必須となっていった。具体的には「食」と「デザイン」が指摘でき、食に関しては最重要課題だったという。当時、プリンスホテルの食事はまだまだ改善の余地があった。
食の品質改善として東京シティエリアで取り組んだのが“海外のスターシェフとのコラボ”だった。確かに近年のプリンスホテルでは、毎年さまざまな国をテーマにしたフェアを積極的に行っている印象がある。
海外のスターシェフを招聘して驚かれたのが、日本の料理人の技術レベルの高さだったという。もともとの技術は高いのに、やはり感性やセンスといった部分に大きな差が出るのもまた料理なのだろう。国内試合しかしていなかったサッカーチームが国際試合をやったようなもので、次第に料理は変わっていった。これもまた、進化途上といった印象であるが、ディレクションを示すマネジメントはホテルにとっても重要ということだろう。
食と並んで取り組んだのが「デザイン」だ。プリンスホテルの伝統的な建物で特徴的なのは、歴史的にも名高い有名建築家の作品が目立つということ。反面、名建築をそのままにしていたのもまたプリンスホテルであった。アーキテクト(建築家)の時代からいまはインテリアデザイナーの時代だ。
インデリアデザイナーの作風がホテルのイメージを形作る。そもそもの設計思想を引き継ぎつつ、効率的な運営にも資するべくどう発展させることができるのか、これもまた新生プリンスホテルの品質改善テーマとなった。
余談であるが、新しいホテルで見かけるのがスタッフのユニフォームもインテリアデザイナーが担うケース。ユニフォーム=作業着からホテルデザインの一部という発想もプリンスホテルに落とし込まれていった。
(前編了)
前編では、東京を中心としたプリンスホテルのブランド化や食、デザインの品質改善について考察した。後編ではエリア化の功罪や気になる売却後についても考察する。
著者プロフィール
瀧澤信秋(たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)

一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。
日本を代表するホテル評論家として利用者目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。その忌憚なきホテル評論には定評がある。評論対象は宿泊施設が提供するサービスという視座から、ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、旅館、簡易宿所、レジャー(ラブ)ホテルなど多業態に渡る。テレビやラジオ、雑誌、新聞等メディアでの存在感も際立ち、膨大な宿泊経験という徹底した現場主義からの知見にポジティブ情報ばかりではなく、課題や問題点も指摘できる日本唯一のホテル評論家としてメディアからの信頼は厚い。
著書に「365日365ホテル」(マガジンハウス)、「最強のホテル100」(イースト・プレス)、「辛口評論家、星野リゾートへ泊まってみた」(光文社新書)などがある。
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