Thursday, October 7, 2021

「40施設を売却」と報じられたプリンスホテルは“崖っぷち”なのか 現執行役員が語った生き残り策とは - ITmedia

 北海道から九州まで計49施設を擁し、国内ホテルの代名詞的な存在である「プリンスホテル」。コロナ禍前の調査では、売上高は2021億円とダントツの1位だった(綜合ユニコム:レジャー産業資料「レジャー&サービス産業総覧2020『企業売上高ランキング』」)。

 そんなプリンスホテルだが、2007年から“新生プリンスホテル”として、「ザ・プリンス」「グランドプリンスホテル」「プリンスホテル」の3つにホテル名称を変更。価格帯や用途別にクラス分けし、ブランド全体のボトムアップを図っている。

 そして先日、「ザ・プリンス パークタワー東京」などを筆頭に、国内のホテル・レジャー40施設程度を対象とする売却に向けた動きがニュースになった。施設のほとんどを売るというところまで追いつめられていると考える人もいるかもしれないが、果たして実態はどうなのだろうか。後編では、実際のプリンスホテル関係者の声も交え、さらに詳説していく。

エリア体制の功罪

 食やデザインの品質改善、ブランド化と共にすすめられたのが“エリア体制”だ。前編(実は3種類ある「プリンスホテル」 売り上げ1位なのに、実態がよく知られていないワケ)で記したように、プリンスホテルでは東京を中心とした首都圏を「東京シティエリア」「東京都市圏エリア」と区分し、それぞれが運営していた施設をエリア分けし、横断的なプリンスブランドとしてイメージを形作っていく試みがなされた。

 ホテルごとに運営体制が敷かれていた時代は、“他のプリンスホテルをライバルと捉える”ような風潮もあった。

 そんな当時のプリンスホテルに対して「チェーンホテルなのにそんなことでいいのか?」と疑問を抱いたのが武井久昌氏(現プリンスホテル専務執行役員/東京シティエリア統括総支配人兼東京都市圏エリア統括総支配人)だった。

 武井氏は2008年にプリンスホテルへ入社、前編で述べたようにちょうど基幹3ブランドの浸透が課題とされていた時期だ。そもそも武井氏は1978年にホテル業界入り、82年(27歳)で東急グループの海外ホテル部門、「パン パシフィック・ホテルズ・アンド・リゾーツ」のハワイアンリージェントホテルに移った。その後は、東急電鉄に転籍してパン パシフィックのホテル事業に28年関わり、2005年からは副社長として運営、開発全般を担ってきたという海外畑が長いホテルマンだ。

プリンスホテル 取材に答える武井久昌氏(ホテル関係者撮影)

 日本のホテルを「グローバルスタンダードという観点から変革していきたい」という思いを抱きつつプリンスホテルに入ったという武井氏であったが、先述した食・デザインの品質改善と共にまず取り組んだ課題が「エリア化」であった。それは、チェーンとしての共通項をどう出したらいいのかという問いでもあるだろう。

 「特徴の無いホテルがまとまってもいいチェーンにならない」「プリンスホテルのようなホテルは、ひとつひとつのホテルの個性がまとまって、どういう共通項を出すのかが重要」と考えたという。そのために、まずホテルごとの役割分担をはっきりさせた。役割分担が明確になるとターゲットとなる顧客層もはっきりし、客層が明らかに変わってきたのだ。

 とはいえ、エリア体制にとってホテル相互の協力体制は肝要であるものの、一歩間違えば仲良しクラブになってしまう。武井氏はエリアごとに競わせることも重視した。成績が優秀なホテルは半期毎の総支配人会議で表彰を受ける。かつては競いあったホテルの支配人同士が、優秀な業績評価を受け満面の笑みで乾杯していた光景がいまでも印象に残っていると武井氏はいう。

プリンスホテルとグローバルスタンダード

 武井氏が取り組んだ改革の一例として「品川・高輪エリア」を見てみよう。品川プリンスホテルやグランドプリンスホテル新高輪といった、まさにプリンスホテルをイメージするホテルが点在するエリアだ。

 海外のホテルで長らく働いてきた武井氏がまず感じたのは「グローバルスタンダードを考えていない」という点だった。「国内の基準でやっていたホテルをグローバルスタンダードに照らし合わせればどうなるのか?」という問いからスタートした。

プリンスホテル ザ・プリンス さくらタワー東京(筆者撮影)

 高輪と聞いてイメージするのは何か? やはり“日本庭園”であり“和”だろう。とはいえ難しいのは「グランドプリンスホテル高輪」「グランドプリンスホテル新高輪」「ザ・プリンス さくらタワー東京」の各施設を“和という横串”で通した場合、それぞれをどう演出したらいいのか――。その辺りからひもとかないといけなかった。

 水族館や映画館、ライブホールなどの施設も備えている「品川プリンスホテル」では“エンターテインメント”を打ち出すことは分かりやすかった。しかし、高輪・品川というエリアで考えた場合にはどうしたらいいのか? セントラライズ/ローカライズした方がいいものを分けなくてはならない。会社としてホテルブランドを3つに分けたが、具体的にどういった感覚でやるのかをより明確にする必要があった。

 そうした問いに武井氏は、グローバルスタンダードという品質基準をもって臨んだ。東京シティエリアでいえば、「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」は5つ星、「ザ・プリンス さくらタワー東京」や「ザ・プリンス パークタワー東京」でいえば4つ星は獲得したい。グランドプリンスは4つ星に準ずるブランドで、プリンスホテルは3〜4つ星の間くらいとイメージした。こうして品質基準という“横串”が刺さった。

 あとはそれぞれのホテルにキャラクターを立てなくてはならない。「グランドプリンスホテル高輪」は“トラディショナルジャパニーズ”、「グランドプリンスホテル新高輪」は“コンテンポラリージャパニーズ”、「ザ・プリンス さくらタワー東京」は“モダンジャパニーズ”とし、全体として“ジャパニーズアーバンオアシス”というコンセプトメイキングにより土台は作られた。無論、浸透にはまだまだ時間を要する。未だ道半ばといったところだろう。

外資そしてプリンスホテル

 ホテルとグローバルスタンダードといえば、近年進出著しい外資系ホテルを想起する。プリンスホテルにとって外資系ホテルはどう映るのだろうか。近年は、ミレニアル世代への訴求という点でも外資系ホテルは、デザイン性やサービスなどで先手を打っている印象があり、新たなプロダクトを次々と出してきている。

 その点だけで見てもプリンスホテルはまだまだ発展途上だ。最近の「東京ベイ潮見プリンスホテル」や「品川プリンスホテル アネックスタワー」の改装などは注目されるもののやはりアピール不足も否めない。

プリンスホテル 東京ベイ潮見プリンスホテル(筆者撮影)

 一方、プリンスホテルとしては、外資に対抗するというよりは“外資にないものを”どう伸ばしてくのかという点を重視しているという。

 ラグジュアリーなハード、コンテンポラリーなイメージなど、まねをしてみたところでそもそもホテルは西洋のもの、われわれが頑張っても欧米のものにはならないというのはある種理解できる考えだ。

 「きめ細やかさやあたたかさというような伝統的に培ってきたものによりこだわった方が良いし、それに対してグッとくる客層が厳として存在する」と、プリンスホテルの関係者は語る。プリンスホテルを利用したゲストの声で「日本のホテルならでは」という感想を時々見るが、プリンスホテルにとってそれは最上の褒め言葉だともいう。

 武井氏は、そうした客層について「実は海外のお客さまに多くいるのでは?」と感じているといい、「日本初のホテルブランドとしてしっかりマーケティングしていくことを今後ますます強化していかなくてはならない」とする。

売却によりなにが変わるか

 そろそろスペースも尽きてきた。冒頭でも記したが、プリンスホテルにとっての大きなニュースとして、国内のホテル・レジャー40施設程度を対象とする売却に向けた動きが報道された。プリンスホテルによると対象施設は決定していないというものの、ホテルの資産売却という点について、一般的にはどうように捉えたらいいのだろうか。

 資産売却をするものの、運営権はプリンスホテルに残されるという点は、先の近鉄によるブラックストーンへのホテル資産売却と同様の特徴といえる。

 きっかけは親会社・西武ホールディングスの上場会社としてのコロナ禍による決算対策的なところはあるだろう。しかし本質的にはプリンスホテルが今後、純粋なオペレーターとしてカネを稼げる会社にするための第一歩とも受け取れる。プリンスホテルとしては、これまでよりも運営に対する専門性が問われることになる。

プリンスホテル 札幌プリンスホテル

 資産売却という文字が大きくクローズアップされているが、ホテルオペレーターにとっては、国際的には所有をせず運営に特化するのはスタンダードなスタイルでもある。そもそも、ホテルの運営受託形式はヒルトンホテルの創業者であるコンラッド・ヒルトンがつくったとされる。

 1930年代の大恐慌で所有していたホテルが抵当となったが、銀行はホテル運営が出来ないのでホテル運営をして運営受託料を受け取った。そうして所有と運営の分化がはっきりとされていく中で、ヒルトンのチェーン規模が拡大したわけだ。

 そんなホテルにおける所有と運営の分化傾向を考えても、プリンスホテルが運営に特化していくのは必須ということか。武井氏は「いままでは自社内でなされてきた所有と運営が、結果として一部変わっていくのは前向きに捉えてよい」と話す。

 他方、日本では所有も運営もするホテルが伝統的ホテルとして存在感を発揮してきた。それは、ある種の日本らしさかもしれないが、別の側面からいえば日本にホテル産業そのものが根付かなかったとも評せる。

 日本のホテルが国際競争力を獲得するためには、運営を受託してチェーン規模を拡大していくしかないのだろうか。運営受託であれば、利益を求めるオーナーに対して集客力のある運営会社たらねばなるまい。集客のための差別化戦略として、プリンスホテルが外資にないものをどう伸ばしていくのかについて前述したが、果たしてプリンスホテルの売り物は何か? ハイアットやマリオットと同じではいけないのか? ますますその存在感が問われていくことになるだろう。

著者プロフィール

瀧澤信秋(たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)

一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。

日本を代表するホテル評論家として利用者目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。その忌憚なきホテル評論には定評がある。評論対象は宿泊施設が提供するサービスという視座から、ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、旅館、簡易宿所、レジャー(ラブ)ホテルなど多業態に渡る。テレビやラジオ、雑誌、新聞等メディアでの存在感も際立ち、膨大な宿泊経験という徹底した現場主義からの知見にポジティブ情報ばかりではなく、課題や問題点も指摘できる日本唯一のホテル評論家としてメディアからの信頼は厚い。

著書に「365日365ホテル」(マガジンハウス)、「最強のホテル100」(イースト・プレス)、「辛口評論家、星野リゾートへ泊まってみた」(光文社新書)などがある。


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October 08, 2021 at 04:00AM
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