2023.01.26 NEW
地球規模で深刻になりつつある気候変動問題。その解決策の1つとして、二酸化炭素など温室効果ガスの削減が求められている。私たちの日常生活に欠かせない「交通」でも二酸化炭素排出削減への取り組みが行われており、排出量が多い移動・輸送手段の見直しが喫緊の課題としてクローズアップされてきた。例えば、大量の化石燃料を使う飛行機は、電気を使った鉄道などへのシフト化や、ジェットエンジンの電気モーター化などの対応が求められている。こうした状況下において注目されているものの1つが、陸上にチューブを張り巡らせて高速移動を可能とする「ハイパーループ」だ。時速1,000km以上の移動が可能になる上、化石燃料を使用しないため温室効果ガスの排出量を抑えることができるという。
現在、日本で取り組まれている高速輸送システムの例としては「リニアモーターカー」が挙げられるが、海外ではハイパーループ導入を唱える声も一部で高まり、実証実験などの具体的なプロジェクトも開始されている。夢の輸送技術であるハイパーループ実現への取り組みの可能性を探っていこう。
ハイパーループ構想とはなにか? 人類が求めた高速と低燃費の歴史
アメリカの有名実業家が2013年に提唱したハイパーループとは、チューブの中を真空に近づけ(以降、「亜真空」)、その中に列車を走らせる構想(=真空チューブ列車)だ。ハイパーループは「飛行機などと違い、走行が天候に左右されない」「単一方向に走行させるため衝突しない(可能性が高まる)」「亜真空状態内を走行するため飛行機の2倍の速度が出せる」「亜真空状態の中は摩擦が少ないので低消費電力で走行できる」などのメリットがあるといわれ、現存する大量輸送方式よりもエネルギー効率が高い上に、騒音なども発生しないとされている。
そもそも、工業や文明は、「交通」とともに発達してきた。人類が目指してきた輸送技術の進歩は、「より安全に」「より速く」「より低コストで」「より便利に」を理念とし、その開発・改良はいまだに続いている。
最も原始的な交通手段に、「人間の足」「牛・馬」「ラクダ」などが挙げられる。文明の発達とともに、船舶・車両・航空機といった交通手段が実用化され、「運搬具」と「動力源」が分離されたことによって、自然的制約を受けることが少なくなり、交通は画期的な進歩を果たした。
特に、18世紀初頭に発明された蒸気機関は、紡績機や織機の動力源だけではなく、船舶(蒸気船)や鉄道車両(蒸気機関車)に搭載され、産業革命を推進させる原動力となった。その後、19世紀後半にはガソリンエンジンで走る車が誕生。工業技術の発展に伴い、自家用車の大量生産が可能となった。さらには、エンジン技術の向上によって小型軽量化が進み、空の旅も実現した。
そして今、低燃費電力で環境に優しい「次世代の交通手段」であるハイパーループが、現実味を帯びてきた構想として論じられているのだ。
ハイパーループ構想は、ここまで進んでいる!
先述したアメリカの有名実業家は、ハイパーループの実現のため構想をオープンソースとし、さらに賛同した人々が技術を披露するコンテストを開催。その後も、賛同者を増やし、実際のプロジェクトへと至っている。その中から、いくつかのケースを紹介する。
スペインの企業が開発しているハイパーループは、完全電動による磁気浮上で最高時速1,000kmを出し、1両で50~200人の乗客を運ぶものだという。動力源として再生可能エネルギーを利用すれば、環境問題の解決に向けて有力な契機となりうる。電気モーターや車両推進システムが、インフラではなく車両に統合されるためコスト効率が高く、構築と保守が容易なことも特徴だ。同社は、スペイン~ドイツ間をはじめとするさまざまなルートでハイパーループ路線の建設を計画し、世界の都市間の移動時間を大幅に短縮できるグローバルなネットワークを構築しようとしている。2020年には車両が公開され注目を集めた。
アメリカの企業が目指すハイパーループは、ソーラーパネルやその他の再生可能エネルギーを動力源とし、磁気浮上により最高時速約1,200kmで走行する。2017年、フランスに研究開発センターを開設。チューブの組み立てと真空ポンプ装置を設置したシステムで、安全性や保険認証などを確立するための本格的なテストを実施しているという。
この企業の技術パートナーとして鉄道運行に関する実績がある日本企業が名乗りを上げた。欧州共通の列車制御システムの概念実証をクラウドベースで完了し、商用化に向けたマイルストーンを達成したと発表されている。また、ハイパーループの信号システム、運行管理システムなどの試験を行えるデジタルシミュレーターなども開発中で、今後は試験線でのシステム全体の物理的テストを目指していくようだ。
実現は可能か!? 山積する課題もあるが、派生する新たな技術開発にも注目
ハイパーループ構想の発表から10年で、さまざまなプロジェクトが生まれた。だが、ハイパーループ技術にはいまだに多くの課題が残るといわれるだけに、実現には懐疑的な見方も多い。特に、実績のある高速鉄道や幾度もの試験走行も行っているリニアモーターカーなどと比較すると、安全性や乗客の快適性には検討の余地があるとの指摘もある。
ただし、新しい取り組みから技術や用途が生まれることがあることを忘れてはならない。例えば、電子レンジはレーダー装置の開発段階で偶然にマイクロ波による発熱が発見されたことから、調理器として製品化されたのだ。
これまで見てきたように、ハイパーループの実現に向けさまざまなチャレンジが行われており、新技術や新理論が生まれる可能性は十分にある。その技術が、異なる分野で活用され、将来の暮らしに役だってくれるかもしれないのだ。
新しい移動手段はライフスタイルも変える
ハイパーループをはじめとする新しい交通手段が現実のものとなれば、映画や小説、漫画などで描かれてきたSF世界をリアルに体感できる、ワクワクする未来が待っているかもしれない。
空飛ぶクルマが実現した未来を描いたイメージ
出典:経済産業省ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/robot/181220uamroadmap.html)より「都市での人の移動」
日本の新しい試みに「スーパーシティ構想」があり、空飛ぶクルマや無人タクシーが当たり前となる未来都市の出現を目指している。スーパーシティとは、従来の規制や制度を改革し、IT技術の活用をすることで我々の暮らしを根本から変えようという取り組みだ。日本では、国家戦略特別区域法改正により、新たな国家戦略特区の1つとして「スーパーシティ型国家戦略特区」が創設され、茨城・つくば市と大阪市が特区に指定された。
2025年に大阪で開催される日本国際博覧会(略称:大阪・関西万博)では、「空飛ぶクルマ」が登場し、大阪ベイエリアでエアタクシーサービスも実現する予定となっている。これらが実用化されれば、バッテリー駆動(電動)により静かな移動が可能となり、二酸化炭素の排出もゼロになるという。都心で常時発生する渋滞も解消され、ストレスフリーな毎日を過ごすことができると考えられている。また、都市部だけでなく離島部での物資輸送サービスや、災害時の緊急輸送サービスなど、さまざまな地域での活躍が期待されている。
ハイパーループ構想や空飛ぶクルマへの取り組みを見るに、新しい切り口のビジネスは今後も生まれ、成長していくだろう。特に近年の科学技術の発展はめざましく、希望に満ちた未来に胸が膨らむ。日頃から、ITやAI(人工知能)、宇宙産業などの最先端技術の進歩、さまざまな関連業界の動向に目を向けておきたいものだ。
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