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旅客専用の高速列車として発達してきた新幹線。しかし今やJR東日本など各社は新幹線を使った荷物輸送を日常的に行い、規模拡大へ実証実験も重ねる。環境対策や労働力不足解消、さらには働き方改革に向けて、国は物流手段をトラックから鉄道へ切り替えるモーダルシフトの柱の一つに「貨物新幹線」を据えた。その実現性は? (編集委員・嶋田昭浩)
◆魚や野菜「鮮度」を運ぶ
「朝どれ鮮魚」「超速輸送」―。JR各社のウェブサイトには、新幹線で運ばれる商品の宣伝文句が並ぶ。多少の時間をかけても大量の品物をまとめて運ぶ従来の「貨物」鉄道輸送とは違って、少量でも速達性にこだわる鮮魚類などをターゲットに広がったのが、新幹線による「荷物」輸送だ。
東北、上越、北陸新幹線などを運行するJR東日本は、2017年に山形、新潟、長野などから野菜や果物を東京へ運んだのを皮切りに、20年にはJR西日本と連携して富山産の鮮魚を東京へ輸送。同じ年、JR北海道とも組んで、函館の活魚を東京へ運び始めた。
当初は車内販売の縮小に伴って空いたその準備スペースに駅ホームから積み込んでいたが、やがて客室も活用。昨年6~9月には「トライアル」として車両基地でも積み降ろし作業を行い、1本の列車で最大約700箱に及ぶ商品を輸送した。中身は青果や食品、医療用医薬品、精密機器だったという。
JR東海は03~09年に、運輸会社から緊急の荷物を預かって東海道新幹線で輸送。JR北海道も、北海道新幹線で21年から宅配の荷物を運んでいる。
一方、JR西日本は21年に山陽新幹線の新大阪―博多間で新聞の定期輸送を開始。JR九州は鮮魚や駅弁、機械部品などを九州新幹線で運ぶほか、日本赤十字と連携して血液輸送の実証実験も始めている。
「速達性や定時・安定性によって荷主から期待を寄せられており、輸送ビジネスとして大きな可能性がある」とJR東日本コーポレート・コミュニケーション部門の児玉拓也さんは指摘。JR北海道広報部の三沢幹男さんは「地方創生、物流危機、環境問題を踏まえ、新幹線荷物輸送をうまく活用できれば」と期待。JR九州東京支社企画課の中村渉さんも「モーダルシフトの受け皿となれるよう体制をつくりたい」と話す。
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◆貨物と旅客 同床異夢
「将来的に(新幹線で)貨物専用車両による高頻度の大量高速輸送を実現できれば、わが国の物流においてイノベーション(変革)を引き起こす可能性がある」。鉄道物流を巡る国土交通省の検討会は、2022年7月の中間とりまとめで、本格的な貨物新幹線の実現に向けた取り組みを促した。今年4月にトラック運転手の労働時間規制が強化されるのを機に、モーダルシフトの必要性がいっそう強く認識されるからだ。
実は、貨物新幹線構想は半世紀以上前から温められてきた。
JR貨物が07年に発行した「貨物鉄道百三十年史」は、1959(昭和34)年4月に運輸大臣(当時)が東海道新幹線の工事計画を認めた「認可書」に貨物列車への言及があったとして旧国鉄の「計画の概要」を詳しく解説。「東京・大阪間の運転時間は5時間30分」「旅客列車と競合しないよう運転は全て夜間」「線路の保守時間を確保するために必要に応じ週に1回運休」「貨物駅は、東京、静岡、名古屋、大阪の4駅」などと記している。現在の在来線の貨物列車がほとんど機関車けん引なのに対し、旅客列車と同様に電車方式とする方針も固まっていたという。
実際に貨物駅の用地買収も行われたものの、その後、貨物新幹線計画は立ち消えになる。東海道新幹線の建設に当たって世界銀行の借款を得るため、経済成長に欠かせない貨物輸送を国鉄が「見せかけの構想」として掲げたとの見方が根強くある。しかし、当時の事情を知る元国鉄幹部は本紙に「真剣な計画だった」と証言。逆に、世界銀行が国鉄に対し新幹線での貨物輸送実施を要請してきた、と元国鉄副総裁(故人)から直接聞いた関係者もいる。
今日では災害対応でも貨物新幹線への期待の声が上がる。
国が旗を振るモーダルシフトがなかなか進まない主な理由の一つとして、在来線が大雨などの災害に弱く、貨物列車の遅延や運休が少なくないことが挙げられる。構造が強固な新幹線なら安定した貨物輸送が確保できるうえ、災害時の救援物資輸送などにも有利とされる。
だが、貨物新幹線の実現には解決すべき課題が多い。国交省の検討会は、JR貨物を中心に今後の検討を進めるよう提言したものの、JR貨物は「当社には新幹線に関する知見がない」としており、車両開発などを巡ってJR東日本など旅客会社との協力が欠かせない。
検討会では、その旅客各社が既に新幹線のダイヤは過密状態であり、旅客列車よりスピードの遅くなる貨物列車を走らせるのはダイヤ調整などの点で困難と主張。主に夜間に行われる線路の保守作業も働き手の数が急激に減っており、厳しい状況に陥っていると訴えていた。
一方で、JR東日本などは、自らのビジネスチャンスと見る新幹線荷物輸送を「拡大していく」構えだ。
JR貨物の犬飼新(いぬかいしん)・社長は、現段階で旅客各社の取り組みは量や枠組みが貨物輸送と異なるとしながらも「将来的に車両を改造して、もっとたくさんの荷物を積めるようになると、当社の領域に入ってくる。いろいろ相談しながら、いい意味ですみ分けができるようにやっていきたい」と語っている。
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