Sunday, July 12, 2020

脱炭素へ供給網構築急げ 水素エネルギー輸送、実証段階に - 日本経済新聞

海外の安価な石炭・石油や豊富な再生可能エネルギーを使って水素をつくり、日本に運ぶ取り組みが実証段階を迎えた。日本とブルネイを結ぶ水素輸送のプロジェクトの実証運用が始まり、オーストラリアや中東から運ぶ準備も進む。

日本に到着したMCHのタンクコンテナ(川崎市の東亜石油京浜製油所)

日本に到着したMCHのタンクコンテナ(川崎市の東亜石油京浜製油所)

燃やしても温暖化ガスを出さない水素の利用拡大は、日本単独で限界がある温暖化対策の突破口となる可能性がある。脱炭素に向けたアジア太平洋のサプライチェーンの早期実現が求められる。

東亜石油京浜製油所(川崎市)の一角。トレーラーに載った円筒形のタンクコンテナから、貯蔵用タンクに中身を移し替える作業が進む。ブルネイから運んだメチルシクロヘキサン(MCH)だ。次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD)の担当者は「3日分をためられる」と説明した。

AHEADは千代田化工建設三菱商事三井物産日本郵船で構成する。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け、2015年から水素の大量貯蔵・輸送の実証研究に取り組んできた。

◇ ◆ ◇

MCHは水素とトルエンを化学反応させてできる。今回の実証事業は、ブルネイにある液化天然ガス(LNG)プラントで生じるプロセスガスから取り出した水素をMCHに変えて運ぶ。川崎に到着したMCHは、貯蔵タンクに隣接する脱水素プラントで水素とトルエンに分離。水素は東亜製油所内の天然ガス火力発電所の燃料に混入し、トルエンは再びコンテナにつめてブルネイに戻す。

水素は脱炭素の有力な手段と期待される。しかし、常温で気体の水素は輸送や取り扱いが難しい。そこで常温・常圧で液体のMCHに変換することで長距離輸送を可能にし、5000キロメートル離れた日本とブルネイの間でMCHとトルエンを繰り返し使う流れを実証する。

AHEADの森本孝和理事長は「輸送は2巡目に入った」と語った。ブルネイ側で水素を取り出し、MCHに加工するプラントは19年に完成した。定期コンテナ船で運んだMCHを20年3月から川崎の脱水素プラントに投入し、水素と分離したトルエンをブルネイに戻し、6月からは再び水素と反応させてMCHをつくる作業が始まった。

11月までの実証期間にブルネイからタンクコンテナを約125基、計約2000トンのMCHを川崎に運ぶ計画だ。森本氏は「日本とブルネイで技術実証できた。商用化に向けて次のステップを加速したい」と意気込む。

日本政府が定める水素基本戦略は、水素の国際的なサプライチェーンの実現と、30年をめどに発電における水素利用の商用化を掲げる。そのためには水素の需要開拓による規模の拡大とコスト低減が欠かせない。

森本氏は「世界に展開するため様々な国と話を進めている」と話す。候補の1つがシンガポール。発電やモビリティ、産業用途、ガスパイプラインへの混入などで水素利用を議論している。

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水素の国際間輸送で実証段階にある技術はMCHだけではない。

川崎重工業を中心とする技術研究組合「CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)」が取り組むのは、水素を低温で液化し、専用船で運ぶ方法だ。

豪州南部で産出される低品位炭の褐炭から水素を取り出し、日本に運ぶ準備が進む。6月には神戸市の沖合にある神戸空港島に液化水素の受け入れ施設が完成、HySTRA側に引き渡された。

液化水素を運ぶ専用輸送船も19年12月に川重神戸工場で進水し、タンクなどの取り付けを終えて20年10月に引き渡しを受ける。豪州側での褐炭から水素を取り出すプラントも20年夏に完成する見込みだ。HySTRAの西村元彦事務局長は「21年初頭には豪州から日本へ水素を運ぶ初航海を計画している」と語る。

水素を窒素と反応させ、アンモニアに変えて運ぶ計画も進む。住友化学東京ガスなど11社を中心とする「グリーンアンモニアコンソーシアム」は、水素から作ったアンモニアを石炭火力で燃料に加える「混焼」やガスタービンで直接燃焼する技術開発とともに、海外の供給源から運ぶサプライチェーン構築を探る。

候補の1つがサウジアラビアだ。国営石油会社サウジアラムコと日本エネルギー経済研究所は19年7月、カーボンフリーアンモニアの事業化調査で合意した。サウジが取り組む脱石油改革における日本の協力の一環で、サウジで生産したアンモニアを日本に運ぶ実証事業を探っている。

広い敷地が確保できる豪州や中東で、豊かな太陽光発電を使って水を電気分解した水素を運べば、国土の制約や自然条件から再生エネ拡大に限界がある日本やアジアの脱炭素を後押しできる。

中東の石油や豪州の石炭から水素を取り出し、残る二酸化炭素(CO2)を地中に回収・貯留するCCSの技術と組み合わせれば、化石燃料の有効利用になり、産油国の経済発展にも寄与する。

MCHや液化水素、アンモニアなど水素の輸送手段には強みと弱みがある。今はどれかに絞り込むより、用途や産地の事情に応じて組み合わせ、資源国とアジアの消費国を巻き込んだ供給網をいち早く築くことが、今後のエネルギー安全保障を確かなものにする。

(編集委員 松尾博文)

[日経産業新聞2020年7月10日付]

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