Monday, August 24, 2020

南紀白浜“夢の城”ホテル川久。2人の専門家の掛け合いが楽しい“バーチャル建築巡礼”で訪れた - LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)

日本各地の地域資源としての建築を再発見。2人の語り合いで掘り下げていく

建築史家、建築ジャーナリスト、建築家などで構成する一般社団法人東京建築アクセスポイント(和田さんの記事にリンク貼る)が、5月から始めたオンラインによるセミナーや建築ツアー。誰でもどこからでも参加できることもあって、主催者の予想を超えた反響を呼んでいるという。企画もバラエティーに富み、建築史をじっくり学べる連続講座やバーチャルな街歩き、参加人数を絞った交流型オンラインツアーが用意されている。さらに、7月には東京建築アクセスポイントで理事を務める建築史家で大阪市立大学准教授の倉方俊輔さんと、同じく理事の建築ジャーナリスト・磯達雄さんの掛け合いによる新企画「バーチャル建築巡礼」第1弾、南紀白浜編が開催された。

「バーチャル建築巡礼」の狙いは「日本各地に存在する地域資源としての建築を、活性化」することだという。大阪在住の倉方さんと、東京にいる磯さんが、全国の視聴者を和歌山に連れて行く。博覧強記の2人が語り合うことで、建築と土地の背景やその持つ意味、歴史性がどんどん掘り下げられていく、実に痛快な1時間半だった。

南紀白浜「ホテル川久」エントランス側外観。尖塔の上を飛ぶウサギは彫刻家バリー・フラナガンの作品だ。屋根瓦は中国の紫禁城に使われている瑠璃瓦、庇は左官職人・久住章による土佐漆喰</br>撮影以下すべて/倉方俊輔南紀白浜「ホテル川久」エントランス側外観。尖塔の上を飛ぶウサギは彫刻家バリー・フラナガンの作品だ。屋根瓦は中国の紫禁城に使われている瑠璃瓦、庇は左官職人・久住章による土佐漆喰撮影以下すべて/倉方俊輔

世界から極上の素材と匠の技術を集めて結晶させた究極のバブル建築

南紀白浜は、日本書紀にも登場する、古くからの湯治場だ。霊場・熊野古道は世界遺産にも登録された。日本古来の信仰や文化、歴史が刻まれ、しかも雄大な自然に恵まれている。訪ねるべき建築も新旧さまざまあるが、今回の建築巡礼の目玉は、なんといっても「ホテル川久」(1991年、永田・北野建築研究所)だ。バブル絶頂期に計画された「夢の城」である。総工費は実に400億円。世界中から煉瓦や瓦、タイルなどの素材を取り寄せただけでなく、職人やアーティストも招聘して、設計から完成まで6年かけてつくり上げた、特異にして贅沢極まる建築だ。

倉方さんと磯さんの掛け合いを、少し再現してみよう。

倉方「先日初めて実際にホテル川久を訪れて、まだ感動冷めやらぬ状態です」
磯「異世界にトリップした気分になりますよね」
倉方「写真で見ていたよりずっと本物で。カリスマ左官と呼ばれた久住章さんが手掛けた石膏マーブルの柱、フランスの技法を使った金箔の天井。床はローマンモザイクだから、イタリアですね」
磯「材料だけではなく、職人も本国から呼んでいるから本物なんです。表面だけをマネしているのではない」

1階ロビーの天井はフランスの金箔職人が手掛けたもの。床のモザイクタイルはイタリアから招いた職人集団が手作業で埋め込んだ1階ロビーの天井はフランスの金箔職人が手掛けたもの。床のモザイクタイルはイタリアから招いた職人集団が手作業で埋め込んだ

岬の突端に建ち、大自然と対峙する異世界の古城

倉方「しかし、ヨーロッパの技法を使いながら、デザインは正調ヨーロッパ風ではありませんね。少し外れた北欧やケルト、ビザンチンのようなイメージがあります」
磯「中心ではなく周縁というか。エキゾチズムを求めたのでしょうね」
倉方「そこが画期的ですね。ヨーロッパ周縁部の、海洋交易で栄えた国々を想起させるんです。そう考えると白浜も、半島の周縁にあるようでいて、実は海を介して世界とつながっている。ちゃんと場所と整合しているんですよ」
磯「海越しに見る外観がすばらしい。説得力があります」
倉方「設計した永田祐三さんの度胸と構想力にうならされますね。もしあの場所に、ふつうの箱型のホテルを建てたとしたら、景観破壊になりかねない。建築と自然が拮抗して、別世界を成り立たせています」

海側から見た外観全景。フランスのモン・サン・ミシェルを想起するという人も海側から見た外観全景。フランスのモン・サン・ミシェルを想起するという人も

機能面でも「日本におけるリゾートホテル」を追求して設計された

磯「客室は全室スイート。温泉地だから大浴場があります。しかし、日本旅館なら客室から大浴場まで浴衣で行けるけれど、高級ホテルにはそぐわない。そこでホテル川久では、一般の動線と大浴場に行く動線を分ける工夫をしていました(2010年時点)」
倉方「日本旅館の良さとホテルの良さを両立させているわけですね」
磯「日本ならではのリゾートホテルはどうあるべきか、考え抜いて設計したと思います」

1970年代後半〜1990年代前半に多く建てられた装飾的な建築を、それ以前の機能的で合理的なモダニズム建築に対して「ポストモダン建築」と呼ぶ。ホテル川久もこの時代の建築で、ポストモダンに分類されることが多い。しかし磯さんは「バブル建築とポストモダン建築は区別する必要がある」と語る。

磯「ポストモダン建築は、現代の建築に表層だけ過去の様式を貼り付けたものです。ホテル川久は表層だけでなく中身も含めて丸ごと本物だから、ポストモダンとはいえない」
倉方「ポストモダンは技法まで持ち込んだりしませんからね」
磯「ところが、その古来の技法が、表層だけ自然物を模倣している。ロビーの青い柱は、大理石風の模様を石膏で描いた、いわばフェイクです。昔から建築は、実はポストモダンだったんだな、と分かる」
倉方「同感です。建築に100%の"オリジナル"はない。そして手の届かないものへの憧れは、建築をつくる原動力にもなります」

青い列柱は久住章がドイツで習得した「シュトックマルモ(石膏擬石技法)」という技法を使って仕上げている。大理石が採れないドイツなどの国で発達した技術だという青い列柱は久住章がドイツで習得した「シュトックマルモ(石膏擬石技法)」という技法を使って仕上げている。大理石が採れないドイツなどの国で発達した技術だという

バブルが可能にした建築。異端に見えながら建築の“正統”を教えてくれる

磯「ホテル川久は肯定的な意味でバブルを代表する建築です。バブルだからこそ、ふんだんにお金をかけて本物がつくれた。ただ、お金をかけたから、バブルが崩壊すると成り立たなくなる。ホテル川久も、完成後4年で経営破綻の憂き目に遭いました。しかし、これだけしっかり造られていれば、そう簡単には壊せない。これから、この建築の価値を認める人が、世界中から訪れるでしょう」
倉方「西洋建築の歴史をみても、建築はバブルが生み出します。ローマしかりルネサンスしかり、普遍的な現象です。ホテル川久の質が昭和末期のバブルと結びつくことは、決して価値を貶めるものではなく、むしろ時代精神の優れた現れだと評価されるべきでしょう」
磯「ホテル川久は異端に見えるけれど、実は正統な建築なのではないか、というのが、2人の共通見解ですね」

会員制ホテルとして開業したホテル川久は、現在は一般のホテルとして運営されている。2020年7月1日には館内に私設美術館「川久ミュージアム」がオープン、宿泊しなくても見学できるようになった。館内には創業当時から買い付けられた、サルバドール・ダリ、マルク・シャガール、ヘンリー・ムーア、横山大観などの美術コレクションが展示されている。

この日の「バーチャル建築巡礼」では、ほかに白浜町に隣接する田辺市の南方熊楠記念館新館(2016年、小嶋一浩+赤松佳珠子(CAt))、南方熊楠顕彰館(2005年、矢田康順(インテグレーティッド デザイン アソシエイツ)+堀正人(ホリ アーキテクツ))、熊野古道なかへち美術館(1997年、妹島和世+西沢立衛/SANAA)を巡った。

終了後の質疑では、視聴者の一人から、ホテル川久完成間もない頃の宿泊経験が語られる場面もあった。まだ会員制だったときのことで、最寄りの駅までリンカーンのリムジンが迎えに来たという。運転手はスペインの城の衛兵を連想させるような衣装をまとっていたそうだ。「貴重な体験を伺えましたね」と倉方さん。今後もバーチャル巡礼をはじめ、オンラインならではの建築への近づきかたを積極的に試みていきたいと語った。

東京建築アクセスポイント http://accesspoint.jp/
ホテル川久 http://www.hotel-kawakyu.jp/
川久ミュージアム https://www.museum-kawakyu.jp/

宴会場「サラ・チェリベルティ」。天井画はイタリア人画家ジョルジオ・チェリベルティが「愛と自由と平和」をテーマに描いた。川久ミュージアムに入館すれば見学できる宴会場「サラ・チェリベルティ」。天井画はイタリア人画家ジョルジオ・チェリベルティが「愛と自由と平和」をテーマに描いた。川久ミュージアムに入館すれば見学できる

2020年 08月25日 11時05分

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August 25, 2020 at 09:05AM
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