高速道路などで「JRA」のロゴと馬の名前が描かれたクルマを見かけることがあります。あのクルマは、競走馬を専門に輸送するための「馬運車(ばうんしゃ)」というものです。一体どのようなクルマなのでしょうか。
競走馬輸送の専用車両「馬運車(ばうんしゃ)」とは?
高速道路をクルマで走っていると、「JRA」のロゴと馬名が描かれた、トラックにもバスにも見える不思議な大型車を見かけることがあります。
しかしトラックでもなく、かといって観光バスとも明らかに違う形状と雰囲気なのですが、一体どんなクルマなのでしょうか。
あのクルマの正体は、競走馬の輸送のために誕生した専用車両「馬運車(ばうんしゃ)」と呼ばれるものです。
今回は、関東地区のJRA(日本中央競馬会)所属の競走馬の約8割を輸送している「日本馬匹輸送自動車株式会社(日本馬匹)」に、馬運車について聞いてみました。
そこには「競走馬」をいかに安全かつ快適に輸送するかのノウハウが詰まっていたのですが、まずは、競走馬の輸送専用の馬運車のルーツを教えてもらいました。
「昔は近場の競馬場への馬の移動は徒歩、地方のレースへの輸送は鉄道貨車を使っていたのですが、交通インフラ(幹線道路など)の整備とともにトレーラータイプのトラックで輸送されるようになりました。
無蓋の荷台を使用し、沿道の注目を集めた時代もあるそうです。
当時は馬の世話を担当する厩務員なども競走馬と同じ荷台で移動していたのですが、乗員と競走馬の安全や快適性、さらには積載能力(頭数)を高めるため、特殊架装されたクルマを使うようになりました」
ちなみに日本馬匹はJRAの関連会社で、昭和22年創業という老舗。昭和43年に採用されたセンターアンダーフロア型バスシャシの頃から、現在の馬運車に近い外見になってきたといいます。
当時のバスシャシから現在のようなトラックシャシに変わったのは昭和50年代の半ば。大型観光バスの長距離高速走破性や市内バスの低床化への需要の高まりとともにバスの主流がリアエンジン型に移行し、後部から馬の積み降ろしをおこなう馬運車には採用できなくなったためだそうです。
「そんな経緯があって、弊社の馬運車は、トラックのシャシをベースにバスのフロントウインドウを組み合わせ、内装を馬専用に特殊架装したクルマとして長年やってきました。
ただ近年は衝突安全基準が変わってきたため、開口部のより小さいトラックタイプのフロントウインドウになっています。現在約100台の馬運車を使用して大切な競走馬を安全に各競馬場に輸送しています」(日本馬匹)
日本馬匹の馬運車で現在使用されているのは、日野自動車といすゞ自動車の2社のトラックのシャシ。
これをベースに両社のディーラーを通じ、特殊車両の専門架装業者に競走馬が快適に過ごす馬室、またそれらの競走馬の世話を担当する厩務員が同乗する客室スペースを構築してもらうそうです。
「車両は、走行距離や状態に応じて順次新型車に入れ替わります。キャビンにはドライバーや厩務員を合わせて車検上の定員は6名から7名となっていますが、通常は最大でも4、5人といったところです」(日本馬匹)
ちなみに、車体に描かれている馬名ですが、その名前の馬が実際に乗っているわけではありません。
基本的に日本ダービーの優勝馬や年度代表馬などの名前になっているとのことです。
※ ※ ※
競走馬を輸送する専門業種だけに、日本馬匹のドライバーはよほどの競馬好きなのかと思いきや、意外な回答が得られました。
「どちらかというと、クルマのほうが理由で転職してくる人が多いです。
なかには馬の業界らしく馬術競技の経験者や競走馬の牧場出身者もおりますし、ファンとして競馬を知ったことがきっかけで入社した人も確かにいますが、それよりほかの業種で輸送業に携わってきた人が馬運車に興味を持ち、運転したいという『ドライバー魂』の血が騒いでという人が多いんです。そもそも競馬開催日が勤務日なので馬券は買えませんから」(日本馬匹)
つまり馬運車のドライバーは、馬好きよりもクルマ好きが多いということです。我々が「いつかレーシングカーに乗りたいな」とか「消防車運転したいな」といった動機とほぼ同じというのは、なかなか微笑ましい話です。
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March 31, 2021 at 07:11AM
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