- 研究背景
熱帯での物質の輸送経路や半球輸送における夏モンスーンの役割はこれまで十分に解明されていませんでしたが、日本の衛星GOSATに搭載されたセンサTANSO-FTSの熱赤外バンドで観測されたメタンの鉛直濃度分布データと、大気化学輸送モデルMIROC4-ACTM(注2)のメタンのシミュレーションデータを利用して、物質の半球輸送の経路に関する解析研究を行いました。
物質の半球輸送は主にハドレー循環(注4)と季節によって位置が遷移する熱帯収束帯(ITCZ)によって支配されています。上部対流圏では、GOSATとMIROC4-ACTMのメタンの濃度分布が互いによい一致を示しており、上部対流圏のメタンの高濃度域は、1-3月は熱帯の南半球側にありますが、7-9月にはITCZが北方に遷移するに伴って北西側に移動しています。また、7-9月の特徴として、チベット高原~インド上空にインド-ガンジス平原で放出され上空に輸送されたメタンの高濃度域があり、夏モンスーン性高気圧の南端の東風によって高濃度メタンが大西洋および南半球に輸送されています。一方、インド洋や太平洋では夏モンスーンによってメタンの輸送が阻害されていることがわかりました(図1)。 さらに、半球輸送が活発な領域を調べるために、上部対流圏の低緯度(10ºS-10ºN)においてメタンの移流傾向を計算したところ、以下のことが明らかとなりました。
(1) 熱帯南アメリカ(図2:青紫)、熱帯アフリカ(図2:緑と黄)、東南アジア(図2:赤紫)において年間を通して最も活発に半球輸送が起こっている。
(2) これらの領域では移流傾向がどの季節も負(北半球から南半球へ輸送される)になっており、北半球で放出された物質が南半球へ輸送され、効率的に全球に「分配」される。一方、熱帯インド洋(図2:オレンジ)では夏モンスーンの影響で半球輸送に大きな季節性があること、熱帯アフリカも東西(緑と黄)で夏モンスーンの影響が異なっている。
(3) 北半球の夏季はITCZの位置が北方に遷移しているため多くの領域で移流傾向が正(南半球から北半球への輸送)となっているが、熱帯アフリカ東部(図2:黄)では8月から9月にかけて南半球への輸送が強化される。
- 研究助成
- 発表論文
An analysis of interhemispheric transport pathways based on three-dimensional methane data by GOSAT observations and model simulations
GOSAT観測とモデルシミュレーションの3次元メタン濃度データにもとづく半球輸送経路の解析
【DOI】https://doi.org/10.1029/2021JD035688
【著者】D. Belikov1, N. Saitoh1, and P. K. Patra1,2
1. 環境リモートセンシング研究センター, 千葉大学, 千葉, 263-8522, Japan
2. 海洋研究開発機構 (JAMSTEC), 横浜, 236-0001, Japan
- 補足情報
(注2)MIROC4-ACTM:大気海洋結合モデル(MIROC4)をベースとした大気化学輸送モデル。気象場(水平風、気温)は気象庁JRA-55データを用い、メタンの地表放出量と吸収量、大気中での化学反応(水酸化ラジカルOH、励起酸素原子O(1D)、塩素ラジカルCl)を与えて大気中のメタン濃度を計算する。
(注3)アベレージングカーネル:衛星等のリモートセンシングによる観測の高度ごとの感度を表す、観測の高度分解能の指標となる値。
(注4)ハドレー循環:地球規模の大気大循環の一つであり、赤道付近で上昇し、南北30º付近で下降する循環。
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September 30, 2022 at 12:00PM
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メタンの半球輸送におけるアジアモンスーンの役割を解明 - PR TIMES
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