■連載/阿部純子のトレンド探検隊
2019年11月に創業100周年を迎えたヤマトグループは、次の100年に向けた経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を2020年1月に発表。基盤構造改革のひとつにサステナビリティの取り組みを掲げ、長期目標として「2050年CO2自社排出量実質ゼロ」を宣言した。
2021年1月には中期経営改革を発表し、9つの重点施策のひとつであるサステナブル経営の強化については「サステナブル中期計画2023【環境・社会】」を策定。環境・社会に関する重要課題ごとの目標を設定した。
環境に関する取り組みでは「エネルギー・気候」「大気」「資源循環・廃棄物」「社会と企業のレジリエンス」という4つの項目に分けて、3か年に対する数値目標を掲げている。
今年5月には、温室効果ガス排出量を2030年に2020年度比48%削減という具体的な削減目標を発表。EV(電気自動車)2万台導入、太陽光発電設備を810拠点に導入、ドライアイスの使用量ゼロの運用を構築、再生可能エネルギー由来電力の使用率を全体の70%まで向上させるといった4項目に対する取り組みを進めている。
環境に関する取り組み
2050年までのカーボンニュートラル実現を目指し、2021年10月にグリーンイノベーション開発部を新設。同部内に「エネルギーマネージメントチーム」と「モビリティチーム」を設置しCO2削減などグリーン物流を推進していく。
グリーンイノベーション開発部 モビリティチーム マネージャーの小澤直人氏に現在の取り組みについて伺った。
○低炭素車両・EV車両の導入
「弊社ではCO2排出量の6割ほどが車両由来のため、車両の脱炭素化をどう進めていくのかが大きな課題です。その一つの方法として、EVへのシフトを進めています。
現在、ヤマトグループでは約5万4千台の車両を保有しており、うちEV車は約550台です。2030年までに2万台という目標は、お客様に荷物をお届けする集配車を中心に対応していきます。
しかしEVは導入すれば完了ではなく、EVで使うエネルギーも脱炭素化する必要があります。エネルギーマネージメントチームでは、再エネの調達方法の見直しに取り組んでいます。
電力会社から再エネを調達する手段もありますが、今後日本全体でグリーンエネルギーに移行していくことを想定すると、自社で調達を進めていく必要があると考えており、太陽光発電設備810件の導入はその取り組みのひとつです。また、自社で発電したエネルギーを社会に還元できる可能性や、省エネ、蓄エネにも力を入れていきます」(小澤氏)
EV導入の際に大きな課題になるのが「充電」。太陽光発電による再エネを活用するのも取り組みのひとつだが、配送が終了する夜間に充電するため、再エネが有効に使えない課題がある。
また、EVが高価な理由のひとつに、車ごとに形や大きさがバラバラな為、バッテリーのコストが高い点がある。こうした課題を解決し、車両コストを下げるという観点から、トヨタ、いすゞ、スズキ、ダイハツが出資するCJPTとヤマト運輸が共同で、カートリッジ式バッテリーの規格化、実用化に向けた検討を始めている。
「配送で使う車両は1日の走行距離が地域によって異なります。全国平均では約60㎞ほどですが、都内だと1日に20㎞ほどしか走らない場所もあります。短い距離を走る車両に対して大きなバッテリーは不要であり、バッテリーを分離して充電しておくことができれば、用途によって可変ができ、充電時間による物流のダウンタイムの解消にもつながり、効率がよくなります。
地方だと走行距離が1日100㎞を超える場合もあり、今のEVは長い走行距離に耐えるために充電時間を確保する必要があります。バッテリーが分離できれば、午前中の配送が終わり営業所に戻ったときにバッテリーを交換することができれば、午後はフル充電で走り出せます。
太陽光発電の活用についても、昼間にバッテリーを充電しておくことで再生可能エネルギーをフルに活用できます。こうした点からもカーボンニュートラル実現に向けてカートリッジ式バッテリーの実用化が望まれます」(小澤氏)
○グリーンイノベーション基金でグリーンデリバリーの実現に向けた2案件が採択
「グリーンイノベーション基金」とは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に造成された基金で、政府が掲げる「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において、脱炭素推進のエネルギー等の研究開発に対する事業を支援する取り組み。ヤマト運輸は「スマートモビリティ社会の構築」に関する2案件が採択された。
「充電・充填設備が整っていない環境下で、EVやFCV(燃料電池自動車)などの車両を増やしていくと、充電・充填待ちで渋滞が起きてしまう、電力網に対して多大な負荷がかかってしまうなどインフラに大きな影響を与えてしまいます。インフラを効率的に使っていくためのエネルギーマネージメントができるシステムを開発する必要があります。
弊社としても、EVを導入するにあたり、実際の業務オペレーションとマッチさせるためにはさまざまな課題があり、そのための開発や研究を進めます。将来的には、全車両をEVにしてもオペレーションが成り立つ仕組みを構築したいと考えています」(小澤氏)
社会に関する取り組み
ヤマトグループのサステナブル経営は環境だけでなく、社会に関する取り組みにも力を入れている。
「『サステナブル中期計画2023【環境・社会】』は、会社として求められていること、会社として取り組まなければいけないことを社会と環境に分けてマテリアリティ(重要課題)を抽出して策定をしました。ヤマトグループは約22万人の社員が働いており、社員ひとり一人の意識や資源の使い方もしっかりと視野に入れる必要があります。
また、私たちは地域の方々に支えられ、成長してきた企業として、中期計画では地域コミュニティを大切にし、地域とのレジリエンスを高めていくということを掲げています。社会に関する項目は、多くの社員を抱える当社が事業を持続するために必要な取り組みや、地域の方々や、ステークホルダーに対してどのようなことを取り組むべきかを抽出して策定しました。
SDGs目標に向けた取り組みではなく、当社のサステナブル経営を進めていくことで、SDGs目標にも貢献するという考え方です」(サステナビリティ推進部 環境戦略チーム マネージャ― 池田誠氏)
○音楽宅急便
1986年から企業市民活動の一環として37年間続いている音楽宅急便「クロネコ ファミリーコンサート」は、無料で鑑賞できる本格的なクラシックコンサートだ。
開始当時は地方でのオーケストラ公演が少なかった時代背景もあり、「本物の、いい音楽を年齢や地域を越えてすべての人にお届けしたい」との願いから始まった。
毎年全国約10か所で公演を行っていたが、ここ数年は新型コロナウイルスの影響でリモート開催になっていた。今年は3年ぶりに4カ所でリアル公演を実施。全4公演の様子は特設サイトにてアーカイブを配信中。
○こども交通安全教室
1998年から地域の子どもたちに交通ルールや交通安全への知識を伝える「こども交通安全教室」を全国各地で開催している。小学校、幼稚園から依頼を受け、依頼があった地域の営業所から社員を派遣し、年間1000件ほど実施している。現在は、新型コロナウイルスの影響で開催を自粛しているが、2021年3月末時点で、累計実施回数3万1528回、累計参加人数 339万8704人の実績がある。
子どもたちが集配車に乗り、運転席から見える場所を知らせることで、「ここにいたら運転手から見えない」という死角を体験してもらう。効果を実感する学校・園も多く、毎年恒例化しているところもあるという。
また、南東京主管支店では2016年から警視庁と協力して聴覚に障がいのある子ども向けの交通安全教室を実施。通常の死角体験や横断訓練に加え、手話を用いて、交通安全を呼びかけている。
○クロネコ見守りサービス
ヤマト運輸は地域に根差した事業活動の強みを活かして社会課題解決に貢献している。独居世帯の増加や地域の見守りを担う人手が不足する課題を起点にしたのが、IoT電球「ハローライト」を活用した「クロネコ見守りサービス ハローライト訪問プラン」。
自宅の電球をIoT電球に交換するだけで利用可能で、電球のON/OFFが24時間ないと異常を検知し、事前設定した通知先へメールで知らせる。通知先から依頼があればヤマトのスタッフが利用者の自宅へ代理訪問し状況を確認することも可能。
不動産関連企業や自治体などでも採用され、複数の自治体ではふるさと納税の返礼品として採用されている。
○乗客と荷物を同時に運ぶ「客貨混載」
地域の路線網維持と物流の効率化という課題を起点にした取り組みが、乗客と荷物を同時に運ぶ「客貨混載」。過疎化や高齢化が進む中山間地域を中心に自治体やバス会社などと連携し、路線バスの空きスペースを活用して宅急便を輸送する。地域を走る車両の台数が削減されることでエネルギー削減、コスト、労働時間短縮にもつながる。
路線バスも新たな収入源が確保されることで、バス路線網の維持につながり、地域住民にとっては路線バスの安定的な運行で、病院やスーパーなどの施設へアクセスできるなど、地域の人々の交通インフラの維持にもつながる。
地方のバスに混載するため、運行ダイヤやその地域の集配状況が合致できる場合に導入できる取り組みではあるが、新型コロナウイルス感染症拡大による旅客需要が低迷する中、バスの収益改善という課題を解決する新たな取り組みも始まっている。
○ドローンを使った医薬品輸送の実証実験
地域の医療機関が必要としている医療商材や個人宅までの処方薬などの輸送を、無人航空機(ドローン)を使い経済的実現性を検証する実証実験に向け、岡山県和気町、徳島県那賀町の両自治体とドローン輸送に関する協定を締結。新しい輸送モードとしてドローンを活用することで、持続的な医薬品輸送ネットワークの構築を目指す。
【AJの読み】社会的インフラ企業として環境、社会に対してさまざまな取り組みを実施
数多くの車両を保有するヤマトグループが、環境への取り組みに力を入れていることは想像に難くないが、地域、社会課題、人権や障がい者支援、女性活躍の推進といった、人権を尊重し多様性を認め合う社会づくりにも、社会的インフラ企業として貢献していることを今回の取材を通じ改めて知った。
サステナブル中期計画2023では、女性管理職を2020年度比2倍、女子管理職比率10%、障がい者雇用率2.5%を掲げている。
障がい者雇用の創出として、1993年に障がい者の自立と社会参加の支援を目的に「宅急便」の生みの親である故・小倉昌男氏がヤマト福祉財団を設立。同財団の活動から生まれた「スワンベーカリー」は、現在直営店5店舗、フランチャイズ23店舗に拡大し、350名以上の障がい者が社会参加を果たしている。
ヤマトグループが取り組むさまざまな領域の事業活動には今後も注目していきたい。
文/阿部純子
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October 03, 2022 at 05:18AM
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EV車両導入、見守りサービス、医薬品輸送実証実験、社会インフラ企業として挑戦を続けるヤマトグループの挑戦|@DIME アットダイム - @DIME
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