Sunday, December 3, 2023

一般人が乗れない「貨物列車」、いつも何を運んでいるのか? 意外と知らない謎に迫る - au Webポータル

謎多き貨物列車の歴史

貨物列車(画像:写真AC)

貨物列車(画像:写真AC)

 1872(明治5)年10月14日に新橋~横浜間で日本初の鉄道が開業した。その1年後の1873年9月15日に、鉄道による貨物輸送が始まった。日本で貨物列車が走り始めて2023年で150周年となる。

 貨物列車は日本では旅客列車と同じくらい長い歴史があるが、「乗れない」こともあって、一般の人たちには謎の多い存在だろう。

 現在、日本の鉄道の主役は旅客輸送であり、貨物輸送は地味な存在だ。しかし今でも1日19万km(地球約5周分)の道のりを走って日本の物流を支えており、なくてはならない存在である。

 歴史的に見れば、鉄道が発達したのは大量の貨物を運ぶことができたからである。鉄道の起源は、炭鉱で石炭などを運搬するために作られた、いわゆるトロッコである。米国、ロシア、中国などの大陸諸国では、長距離貨物輸送には貨物列車が欠かせない。日本でも戦後、トラックによる輸送量が大幅に増加するまでは同様だった。

 船は海や水路がなければ使えないし、トラックや航空機は大量の貨物を運べない。大量の貨物を陸上で運ぶには、やはり鉄道が最も効率的である。

 現在、日本の貨物列車は主にコンテナに積まれた貨物を運んでいる。コンテナの中身は多種多様である。野菜や菓子などの食料品から、工場で生産される工業製品、製品を製造するための部品や材料、建築資材など多岐にわたる。生鮮食品のように常温で輸送できないものは、冷蔵・冷凍機能付きのコンテナで運ばれる。

 また、宅配便をコンテナに詰め、貨物列車で運ぶ宅配業者もある。個人の引っ越し荷物も、コンテナに積み込んで貨物列車で運ぶサービスが提供されている。貨物列車は、日本の物流業界の“縁の下の力持ち”といえるだろう。

多様な貨車の時代

貨物列車(画像:写真AC)

貨物列車(画像:写真AC)

 また、 タンク車を使ったガソリン、軽油、灯油などの石油類の輸送も、現在の日本で貨物列車が果たしている重要な役割のひとつである。固体だけでなく、石油、化学薬品、ガスなどの液体や気体も輸送されている。

 タンク車は、臨海部の製油所から内陸部の油槽所まで大量の石油を運ぶ役割を担っている。栃木県や福島県の中通り地域のように、近くに港がない地域でも安心してガソリンを使えるのは、貨物列車が大量のガソリンを運んでいるからだ。

 タンク車は油槽所からガソリンスタンドまできめ細かくガソリンを運ぶ役割を担っており、鉄道と自動車はお互いの利点を生かした石油類の輸送を行っているのだ。

 平時の石油類の輸送に欠かせないタンク車だが、非常時にもその力を発揮する。

 2011(平成23)年3月の東日本大震災では、仙台の製油所が被災し、東北本線が寸断したため、東北地方は深刻な燃料不足に陥った。そこで、東北地方の復興に必要な燃料を輸送するため、普段は石油輸送に使われていない日本海側の路線を臨時の石油類輸送列車が走ったのだ。

 かつての貨物列車は、現在よりも多種多様なものを運んでいた。さまざまなものに対応する専用の貨車が数多くあった。例えば、家畜は生きたまま運ばれた。

 これは現在では効率的な輸送方法とはいえないが、かつては冷凍技術が発達していなかったため、家畜は生きたまま輸送される必要があった。

 もちろん、冷蔵・冷凍のできる貨車が登場してからは、肉もこの方法で運ばれるようになった。鮮魚も冷蔵貨車で直接運ばれ、人を乗せた特急列車並みの扱いで、市場に運ばれていた。しかし、トラック輸送との競争に敗れたり、貨車からトラックへの積み替えが容易なコンテナに集約されたりして、さまざまな形態の貨車は姿を消した。

鉄道と石炭の別れ

貨物列車(画像:写真AC)

貨物列車(画像:写真AC)

 また、貨物列車は今でこそ石油類を運んでいるが、1960年代に石油や天然ガスが主なエネルギー源として台頭する以前は、石炭が主なエネルギー源だった。

 国内の炭鉱では多くの石炭が産出され、産出された石炭は貨物列車によって炭鉱から都市や工業地帯などの消費地、あるいは船舶に積み込むための港湾へと運ばれていた。

 1960年、国鉄は年間4063万tの石油を輸送していた。これは1日平均10万t以上に相当し、500tの石炭を運べる貨物列車が200本以上必要だった。とてつもない需要だったのだ。

 しかし、石炭は石油に取って代わられ、国内の炭鉱は閉山し、石炭を運ぶ貨物列車は自然に姿を消した。2020年まで残っていた、海外から輸入した石炭をセメント工場に運ぶ列車も、最終的にトラック輸送に切り替えられ廃止された。

 明治以来、日本の鉄道と石炭輸送は切っても切れない関係にあった。日本の鉄道のひとつの時代が終わったといっても過言ではないだろう。

環境と安全性の優位性

貨物列車(画像:写真AC)

貨物列車(画像:写真AC)

 日本の鉄道貨物輸送は、一時期トラック輸送に押され、衰退の一途をたどっていたが、近年見直されてきている。その背景には、脱炭素社会への取り組みとトラックドライバー不足がある。

 貨物列車1本で最大650tの貨物を運べる。同じ量の貨物を10tトラックで運ぶとすれば、65台のトラックとそれを運転するドライバーが必要になる。トラックドライバーの不足は今に始まったことではなく、本リポートで改めて「2024年問題」を論じる必要はない。

 鉄道業界も近年、人手不足に直面しているが、トラック業界の人手不足は鉄道業界のそれとは程度が異なる。貨物輸送の鉄道化は不可欠な対策だ。

 また、1tの貨物を1km運ぶ際に排出される二酸化炭素の量は、貨物列車の場合、トラックの約11分の1とされている。鉄道はレールと車輪の摩擦が少なく、1編成で大量の貨物を輸送できるため、走行時のエネルギー消費が少ない。脱炭素化や省エネルギーへの取り組みの観点からも、貨物列車の果たす役割は今後もますます大きくなると予想される。

 また、トラック輸送から鉄道輸送への転換により、道路渋滞や交通事故の減少も期待される。効率的で省エネ、安全・安心な鉄道貨物輸送が、今後復権することを願っている。

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December 03, 2023 at 05:30PM
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