ヤマトホールディングスは21日、共同輸送を促す新会社を設立したと発表した。荷主企業や物流他社と組み、積載率の低いエリアで各社の荷物を積み合わせる。ドライバー不足が深刻化する「2024年問題」を背景に、日本郵便とセイノーホールディングス傘下の西濃運輸も同様の協業基盤をつくる。輸送力の確保に向け、物流網を再構築する動きが本格化してきた。
同日付で新会社「Sustainable Shared Transport(サステナブル・シェアード・トランスポート、SST)」を設けた。荷主の出荷計画や荷物量などの情報と、ヤマトを含む物流会社の運行情報をつなぐ共通システムを24年冬ごろから運用する。荷主と運び手を結び付け、共通のパレットや中継拠点を介した共同輸送サービスを提供する。
24年度は東京・大阪・名古屋間で1日40便の運行を予定し、25年度末には同80便に増やす計画だ。運賃体系は今後詰めるが、荷主1社でトラック1台を貸し切るよりも割安になるよう設定する。25年度末時点でドライバーの運転時間など65%の省人化を見込む。積載率を高めて輸送頻度を減らし、温暖化ガス(GHG)も42%削減する。
国土交通省によると、トラック輸送の積載率は4割程度にとどまる。SSTの社長に就いたヤマトの高野茂幸氏は同日開いた記者会見で「人手が少なくなり、5年後には今と同じ運び方ができなくなる」と指摘。そのうえで「宅急便で培った法人契約や物流事業者との取引実績を生かして社会課題をスピーディーに解決していく」と話した。
ヤマトが新会社の設立に踏み切った背景には、24年問題への強い危機感がある。これまで事実上制限がなかったトラック運転手の残業時間は、4月から年960時間が上限となり、業界全体で人手不足への懸念が強まっている。NX総合研究所(東京・千代田)によると、24年度に輸送能力は14%、30年度には34%不足する見通しだ。
とりわけ関東ー関西以西などの長距離輸送は運転手の拘束時間が長く、途中で休息をとらせる必要がある。輸送時間が長くなり、従来1日で運んでいた距離が2日かかるようになっている。これまで通り、1日で運ぶためには途中で運転手を交代する必要があるが、高齢化の影響で担い手は不足し、運転手を増やすことは簡単ではない。
そこで業界全体で約4割にとどまるトラック積載率を高める必要がある。ヤマトは荷主や物流各社がお互いの荷物を積み合わせることで輸送の効率化につなげる狙いだ。
同業他社も対策に乗り出している。日本郵便と西濃運輸は25年4月にも長距離輸送で協業を始める。積載率の低い区間を洗い出し、順次、共同輸送に取り組む。たとえば日本郵便が東北にある物流施設から同社の荷物を積んで出発し、近隣にある西濃の物流拠点で荷物を混載する。運送先の地域でそれぞれの物流拠点に届ける。
両社が1日で走らせるほぼすべてのトラック計1万台を対象に検討する。そのうえで両社以外の荷物も共同で運べるシステムなど物流基盤も整備する。他社に参加を呼びかけ、日本通運や佐川急便など大手の参画も目指す。荷役作業で使うパレットやカゴ、運び方の共通化などルールを細かく取り決めて共同輸送しやすくする方針だ。
トラック運送会社は約6万社ある。そのうち99%を中小企業が占め、多くは大手の下請けだ。中小は大手より人手不足で、物流網の維持には中小との連携も欠かせない。
日本通運は中小の運送会社と共同利用する物流拠点を整備する。運転手の労働時間が短くなっても長距離輸送ができるよう、荷物を別の車両に積み替える中継拠点をつくる。全国に15カ所前後設け、26年をめどに中小の運送会社など他社にも開放する。
(石崎開)
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