Friday, June 14, 2024

ガザはいま「地上の地獄」…輸送は途絶え、子どもの犠牲は増え続け 支援関係者が語る人道危機:東京新聞 TOKYO Web - 東京新聞

 パレスチナ自治区ガザでイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が昨年10月に始まってから、8カ月が過ぎた。イスラエル軍の苛烈な攻撃で、民間人を含む犠牲者は増加の一途だ。最近もイスラエル軍による人質奪還作戦で多数の死傷者が発生。停戦に向けた交渉も先行きが見通せない。ガザ支援にかかわる人々は、人道危機がいっそう深まっていると声を上げている。(岸本拓也、西田直晃、山田祐一郎)

◆イスラエル軍のラファへの侵攻以降、物資輸送が困難に

 「今ガザには物資がほとんど入らない大きな問題が起きている。飢餓で人が死んでいくことが今後ますます増えることが心配だ」

超党派議連の会合で報告するセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの金子由佳氏(右端)=11日、国会内で

超党派議連の会合で報告するセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの金子由佳氏(右端)=11日、国会内で

 超党派の議員でつくる人道外交議員連盟の会合が11日、国会内で開かれ、ガザ支援に奔走する団体の関係者が現地の窮状を訴えた。

 イスラエル軍は5月7日、戦車などを侵攻させ、ガザ地区とエジプトの境界にあるラファ検問所を制圧した。食料などの人道支援物資を届ける主力ルートだったラファ検問所を封鎖したため、現地への輸送が困難な状況になっている。

 ガザで食糧支援などを手がける特定NPO法人「パレスチナ子どものキャンペーン」の田中好子事務局長は「ラファ侵攻後、6月10日までガザへの物資の搬入がほとんどない日が続いている。輸送ができないために、死ななくていい人が死んでしまっているんじゃないかと懸念している」と話した。

◆「子どもの9割がほとんどご飯を食べられていない」

 田中氏のまとめた国連のデータによると、ガザに支援物資を運ぶトラックの台数は、ガザでの戦闘が始まった昨年10月は218台だったが、今年4月には5671台に増えた。しかし、5月は1656台に減り、6月は10日時点で234台にとどまっている。

 戦禍を逃れた人の多くはガザ南部に避難している。北部から輸送しようとしても、ガザ内の治安悪化で物資を運ぶトラックの約7割が最終目的地にたどり着けていないという。

 田中氏は「パレスチナの子どもの9割がほとんどご飯を食べられていない。5月以降はさらに心配だ」と栄養状態を危ぶむ。国会議員や外務省職員を前に「市民脱出に『命のビザ』を発給できないか」と訴えた。

◆「悲劇を止めるには即時の停戦しかない」

 特定NPO法人「パルシック」でパレスチナ事業を担当する糸井志帆氏は「もともと物資運搬は十分ではなく、ラファ侵攻でさらに悪化した。ガザでは子どもたちが餓死し、人々は瀕死(ひんし)の状態にある」と強調。「8カ月以上続く激しい空爆で人々の心や体は破壊され、ガザはまさに『地上の地獄』のようになっている」

アメリカのジョージ・ワシントン大キャンパス周辺で抗議の声を上げる学生たち=4月26日

アメリカのジョージ・ワシントン大キャンパス周辺で抗議の声を上げる学生たち=4月26日

 公益社団法人「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」でガザ事業を担当する金子由佳氏は、何度も避難を強いられたガザ市民が散り散りになっている現状を踏まえ、「国連も活動しているが、長くガザで活動してきた国際NGOなど支援団体は、細かい人の動きや地域の情報が入ってくる」と、きめの細かい活動ができる民間の支援団体の強みを強調した。

 これまでに政府は、ガザを支援する日本のNGOの活動に6億円を援助している。ただ、7月以降も国内10団体以上がガザでの支援活動を予定しており、来年3月までに少なくとも10億円の活動資金が必要という。金子氏は、政府に追加援助を求めつつ、こう呼びかけた。「すでにガザの子どもたちの少なくとも1%(1万4100人)が亡くなり、犠牲は増え続けている。悲劇を止めるには即時の停戦しかない。政府には、停戦に向けたあらゆる外交努力をしてほしい」

◆「国際社会で忘れられている」

 イスラエル軍による攻撃は激しさを増している。8日にはハマスに拘束されていた人質4人の奪還作戦で300人近いガザの住民が死亡した。ガザ保健当局によると、昨年10月7日以降の戦闘によるガザ側の死者は3万7000人を超えた。

 日本政府の姿勢も批判を集めた。今年1月、ガザで人道支援に携わる国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の複数の職員が、ハマスによるイスラエル攻撃に関与した疑惑が浮上。日本政府は、米国などに追随する形で資金拠出の一時停止を表明。4月になってようやく再開された。

イスラエルへの抗議のために掲げられた看板=東京都目黒区

イスラエルへの抗議のために掲げられた看板=東京都目黒区

 特定NPO法人「日本国際ボランティアセンター(JVC)」は、パレスチナ自治区の東エルサレムに日本人スタッフ2人が駐在し、現地のパートナー団体と協力してガザ地区の住民に現金を給付したり、幼児の健康診断やミルク缶配布をしている。同センターのパレスチナ事業担当の小林麗子氏(50)は「攻撃があったヌセイラトに近い中部で現地スタッフが活動している。8日のボイスメッセージでは、背後で銃声が響き、涙声で『いままでにない激しい攻撃だ。どこへ避難したらよいのか』と訴えていた」と明かす。

 「住民からは停戦が実現しない現状に『なぜ何も動いてくれないのか』と、国際社会で忘れられているとの不安が聞かれる。UNRWAへの資金拠出を一時停止した日本に対しても『本当に失望した』との声があった」と小林氏は話す。

◆日本では署名集め 3週間で2万筆超

 ガザの状況を危惧する日本の市民たちもいる。「イスラエルのジェノサイドを許さない市民の会」(東京)は4日以降、街頭などで集めた署名を国会議員に順次渡している。ジェノサイド(民族大量虐殺)に当たるイスラエル軍の攻撃をやめるように同国政府に要請してほしいと望む。

 市民の会によると、ガザ侵攻に反対し、全国100カ所以上で実施されたスタンディングデモの参加者らを中心に、署名への賛同の輪が広がった。5月下旬から3週間で約2万2000筆が集まり、多くは20〜30代の若者だという。

署名を渡した国会議員と意見を交わす滝あさこ氏

署名を渡した国会議員と意見を交わす滝あさこ氏

 署名は先進7カ国(G7)がイスラエル軍に武器を供与しないことも求めている。同会メンバー滝あさこ氏は「イスラエルへの武器輸出は言語道断。他にも経済的な制裁措置が必要な段階だと思う」と訴える。

 関西地方で署名を集めた疋田香澄氏(38)は「日本は平和を希求する国際社会の一員。イスラエルに対し、毅然(きぜん)として、民族浄化とも言える虐殺を止めるため、あらゆる手段を取るべきだ」と話す。

◆停戦なお見えず…「終結すればネタニヤフ政権が存続できない」

 国連安全保障理事会は10日、米国が公表した停戦案をイスラエルとハマス双方が受け入れるよう求める決議を採択。国連はイスラエルを「子どもの人権侵害国」に指定することも明らかにしている。イスラエルへの国際社会の圧力は強まっている。では、多くの人が願う停戦について、現段階での実現性はどうか。

 「いまボールはイスラエル側に投げられているが、実現はしばらく難しいだろう」とみるのは東京外国語大の黒木英充教授(中東研究)。「イスラエルはガザで殺りくだけでなく、住宅や学校、病院など生活インフラを破壊し、人が住めない場所にする試みを続けている。国際社会での孤立の強まりを自覚し、焦りもあるが、戦闘を終結すればネタニヤフ政権が存続できなくなる」と指摘する。

 日本は何をすべきか。黒木氏はこう訴える。「外交では、現状についてしっかりと抗議し、ビジネス面でも、政府が検討しているイスラエル製の攻撃ドローン購入を中止するべきだ。被爆国として、この戦争が周辺国に拡大、暴走して核兵器使用に至ることがないようイスラエルに毅然とした態度を示す必要がある」

◆デスクメモ

 議連での支援団体の報告によると、ガザで輸送用トラックの料金は1日7000ドル(約110万円)に高騰しているという。車両を確保しても輸送路は限られ、安全の保障もない。今回の飢えは明らかに人為的な産物だ。私たちは怒り、命を救う最大限の努力をしなくてはならない。(北)

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