Wednesday, December 25, 2019

ホテリエ・野尻佳孝が語る、日本初のブティックホテルはこうして生まれた。 | Feature - Pen-Online

TRUNK(HOTEL)が渋谷で具現する、「ソーシャライジング」とは。

渋谷の複雑な地形をイメージしてホテルを設計。オープンから3年とまだ新しい建物だが、街に溶け込んでいるのはそのためだろう。©TRUNK

日本初のブティックホテルを野尻さんのホームタウンである渋谷につくるべく最初に行ったのは、核となるコンセプトを決めること。自分たちはなにがしたいのか。その1点を掘り下げるため、スタッフと繰り返し何度も話し合った。

「そもそも自分は何者なのかってところまで深く考えて、ようやくスタッフ10人の価値観が重なったのが『貢献』と『独創』、そして『誠実』でした」

並行して野尻さんとスタッフは、渋谷の街を知るため、くまなく街を歩き行政や昔から地元で商売をしている店、名士に話を聞いた。渋谷の人々だけでなく、日本の消費者がなにを求めているか年月をかけてリサーチを行ったのだ。

「そうすると、『社会とつながりたい』という声が聞こえてきたんです」

TRUNK(HOTEL)が渋谷で具現する、「ソーシャライジング」とは。

「僕たちがしたいことと、渋谷に暮らす人たちの求めていることが合致して、『ソーシャライジング』というコンセプトが生まれました」と野尻さん。何度も話し合い、何軒も聞き取りを行ったからこその成果だ。

そして導き出されたのが、等身大の社会貢献を意味する造語、「ソーシャライジング」というコンセプトだった。

「じゃあ社会貢献をしよう、といろんなボランティアに参加してみたんですが、真面目に考えれば考えるほど生活しづらくなってしまったんです。自分は二酸化炭素を排出するクルマや飛行機に乗りまくっているのに、環境のこととか語っていいのかって。僕たちのやりたいことは、等身大でなければ長続きしないんです。そこで、『普段の生活が、結果として社会とつながっていた』ってスタイルが広まれば、自然と心が豊かになる人も増えるのでは、と考えました」

リサイクル原料を活用した家具でくつろぐ、廃棄された陶磁器を再利用したマグカップでコーヒーを飲む、障がい者支援施設とコラボしたオリジナル商品を購入する……。そんなTRUNK(HOTEL)で体験できる小さなアクションが、社会とのつながりを生むような仕組みを打ち立てたのだ。

その他にも、オープン当初からホテル全体の売り上げの中から年に500万円を目標に、東京や渋谷を中心に活動するNPO団体などへ寄付を続けている。毎年、寄付先を一般公募し、活動に共感する団体を社員全員で選ぶのだという。

TRUNK(HOTEL)が渋谷で具現する、「ソーシャライジング」とは。

TRUNK(HOTEL)のある5丁目を含む神宮前1、4〜6丁目はかつて穏田(おんでん)と呼ばれ、現在でもホテルの隣には由緒ある穏田神社がある。そのエピソードから、バンケットのひとつがONDENと名付けられた。©TRUNK

TRUNK(HOTEL)が渋谷で具現する、「ソーシャライジング」とは。

プロによる技術指導を通して障がい者の自立を支援するチョコレート工房「ショコラボ」とのコラボ商品。社会福祉法人やLGBT支援団体と商品開発を行うなど、多様性を推進する商品も多数販売している。©TRUNK

独創的なのは、コンセプトだけではない。

「TRUNKにはマニュアルがないんです。会社がルールを決めるのではなく、スタッフが自発的に働きかけるような環境にしたい。仕事で自己決定できるから『会社は自分のもの』とオーナーシップをもって働くことができ、それがホテルの価値になっていく。その結果、お客さんに喜んでいただけるのだと信じています」

ユーザーが多様化するホスピタリティ業界において、マニュアルによる接遇はナンセンスと考え、大胆にもマニュアルを廃止。日本人の根底にある“尽くしたい気持ち”や“共感性の高さ”を期待しての判断だった。

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