Thursday, November 4, 2021

ビジネスホテルの“無料朝食”、気になる原価は一体いくら? 激化する“朝食合戦”から見るホテルの今 - ITmedia ビジネスオンライン

 ホテルが朝食で特色を出そうとしていることは、宿泊者としてひしひしと感じる時がある。インバウンド活況時からコロナ禍という流れの中で露呈した宿泊施設の供給過多にあって、他の施設にない特色を出して差別化を図るのは当然。新たな施設の建設やリノベーションを施せば特色は強く打ち出せるが、コストはバカにならない。つまるところ朝食は差別化のアイテムとして取り組みやすい部分なのだろう。

ホテル朝食 大小さまざまな規模のブッフェ朝食がある(筆者撮影)

 「ピーク」と「エンド」の経験が物事の印象を大きく左右する「ピークエンドの法則」がある。宿泊者からしても、ホテルステイで最後に体験したことの印象が良いとそのホテル全体がよく見えるものだ。そうした部分でもホテルが朝食に力を入れることはある種理にかなっていることのように思える。

 宿泊施設やホテルといっても多種多様。ホテルは「シティーホテル」「ビジネスホテル」「リゾートホテル」など、さまざまなカテゴリーがあり、われわれも旅のスタイルからホテルを選ぶときの基準にしている。では、宿泊施設ごとに朝食の特色はあるのだろうか。“高級”と言われるシティーホテルやリゾートホテルは豪華な朝食で、宿泊特化のホテルが簡素かというと一概にそうとは言えない。

 確かに元来はそうした傾向はあったのだろうが、ビジネスホテルでもハイクラスな施設が際立ち、“朝食合戦”が激化した結果、シティーホテルの領域に“浸食”するような豪華な朝食に接することも増えた。内容ばかりではない。これまで「シティーホテル朝食」の十八番であった卵料理を目の前で調理してくれるような“実演”をビジネスホテルでも見かけるようになった。

宿泊特化型ホテルの朝食も進化

 宿泊特化タイプだけど豪華なホテル、ビジネスホテルのようにサービスを割り切るシティーホテル、温泉ライクなビジネスホテルというように、ホテルカテゴリー自体もボーダーレス化していて、それは朝食も同様である。ホテルの格=朝食の内容(基本的にそうした傾向はあるものの)とは一概には言えないのがホテル朝食のいまである。

ホテル朝食 熱々メニューが好評のホテルも(筆者撮影)

 高級ホテルやラグジュアリーホテルではないのに「えっ、こんな朝食を出しているの?」と感じるのは、高級ホテルに比べて宿泊料金も安い「宿泊特化タイプ」の朝食だろう。その進化はやはり気になるところだ。

 多様なサービスを提供するシティーホテルと比較して、宿泊特化タイプのホテルでは、特徴を打ち出せる部分は限られているので、利用者側も(もちろん施設の新しさや予算はあるとして)ホテルを選ぶ基準として、朝食を事前にチェックする人も多いのではないか。

 そんなゲストのニーズを充足させようと、一般的な宿泊特化タイプのホテルでも、地産食材やご当地メニューなど特色ある内容はいまやデフォルトになっている。

 一方、ローコストタイプのビジネスホテルの中には“無料朝食”をウリにするブランドもある。実際に体験してみると、豪華な食材が見られないのは当然だが、ご飯やみそ汁、数種のおかずといった温かいメニューもそろっており、時間の無いビジネスパーソンにとっては簡素にパパっと済ませられるのはうれしいとの声も強い。

 うまくニーズにマッチしていると感じる無料朝食だが、同じビジネスホテルでもハイクラスタイプになると前述したような「特徴的な有料朝食」が多々見られる。ハイクラスタイプのホテルが簡素な無料朝食を出していては、やはりホテルブランドとしてのイメージを毀損しかねず、当然の成り行きだろう。

朝食込みでお得感を演出

 先ほどから“無料朝食”と表現しているが、無料朝食について記事を書くと「無料とはいえ宿泊料金に含まれているだけで厳密には無料ではない」というツッコミをいただく。その通りであるが、有料朝食との対比表現としての無料朝食というワードはホテル側でも打ち出している表現である。一方、有料朝食も、これは有料といえるのか? と感じる時がある。有料朝食は宿泊とセットで朝食付きプランとして売られているケースが多い。

 本来ならば、素泊まりの宿泊料金に朝食の定価を上乗せするからこそ“有料朝食”と表現するものだ。しかし、朝食付きプランを見ると、本来の朝食の定価は厳密に上乗せされておらず、かなり割り引かれているパターンが当たり前だ(時に有料なのにプランとして無料で付いてくることも)。“朝食を付けるとお得ですよ”というアナウンスにも見える。また、チェックイン時に「前日なら朝食券を安く買える」といった案内もよく見かける。

 宿泊客ではなく、朝食だけを食べに来るゲストは当然定価を支払うわけであるから、定価は朝食の価値を表明するある種“記号”的側面もあるのだろう。また、宿泊客へのサービスという面では、選ばれるホテルとなるための一つのアイテムとして力を入れる朝食をセットにしたプランでお得感も打ち出し、予約客数の増加につなげたいというホテル側の強い思いを感じる。

ホテル朝食 りんごカレーが人気という青森のホテル(ホテルマイステイズ青森駅前/筆者撮影)

 ところで、ホテル朝食といえば「ブッフェスタイル」が定番で、事実人気がある。ブッフェスタイルを採用した場合、しない場合によるホテル側のコスト負担についてはここで触れないが、ホテルが朝食にどれくらいの原価をかけているのかは気になるところだ。

 ホテル朝食の今について前置きが長くなったが、今回は宿泊特化タイプのホテル朝食(ブッフェスタイル)について深掘りしたい。

ビジネスホテルの無料朝食の原価は?

 よくこうしたテーマに際して「原価率」という指標が用いられる。売り上げに対しての原価(食材費)ということになり、原価率30%が一般的な指標だとよく言われる。一方、ホテル朝食ブッフェにおいては、基本的に宿泊プランとして合わせ技で販売されていることから、原価率ではなくゲスト1人あたりの原価へブレークダウンして算出する必要がある。

 例えば、定価では1500円で販売しているものの、朝食付き宿泊プランの料金8000円のうち、1人あたりの朝食の原価は実際どのくらいを占めるのか? といった具合だ。ホテルが設定する客室単価とも関わってくる部分である。

ホテル朝食 (画像提供:ゲッティイメージズ)

 以前、本連載で「ホテル1室のアメニティー、清掃費用は一体いくら?  ホテルの気になる“原価”あれこれ」というタイトル(厳密には原価ではないが)で、ホテル1室のアメニティー費用といったコストを取材し執筆した。ホテル利用者にとって興味深いテーマということで反響をいただいた。

 朝食についてはホテルごとにかなり差異があり、事実、ホテルも注力する部分にしてその原価はアメニティーよりも興味深い部分かもしれない。もちろんアメニティー同様、ホテルとしては一般には開示したくない情報であるが故、取材は難航した。一方で複数の会社から回答を得ることができた。今回は前編・後編に分けて、ホテルの朝食原価を深掘りしたいと思う。

ビジネスホテルの無料朝食の原価

 さて、ローコストタイプのビジネスホテルでよくある無料朝食からみていこう。

 関係者によると、無料朝食の原価は300円〜だという。これも朝食の内容同様にホテルによりけりで、かなりシンプルな朝食ホテルではさらに安価な設定もあれば、無料とはいえ内容を充実させているケースなどバラエティーに富み、「300円〜」という金額は一つの指標的数字といえよう。

 他方、ハイクラスタイプのホテルで、定価1000〜2000円で提供している有料朝食の場合の原価は、600〜800円辺りが多くみられた。少し充実させたホテルだと900円というところもあった。

 前述した一般的な原価率指標である30%と単純に比べてみると、かなり高いことが分かる。「朝食でもうけようとしてはいけない、泊まっていだたくためのアイテムなのだ」というホテルのスタンスが見えてくるようだ。

 そんなホテルの朝食原価あれこれであるが、エリアによって特色があるケースも。“ホテル朝食戦争”などという表現でセンセーショナルに報じられているのが、北海道のホテル。特徴的なのが、コストのかかる「海鮮食材」を出している点。ビジネスホテルから高級リゾートホテルまで、豪華な“海鮮勝負”といった様相を呈している。後編では北海道のホテルで見た驚きの朝食原価について述べていきたい。

ホテル朝食 センチュリーマリーナ函館の海鮮コーナー(筆者撮影)

(前編了)

著者プロフィール

瀧澤信秋(たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)

一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。

日本を代表するホテル評論家として利用者目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。その忌憚なきホテル評論には定評がある。評論対象は宿泊施設が提供するサービスという視座から、ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、旅館、簡易宿所、レジャー(ラブ)ホテルなど多業態に渡る。テレビやラジオ、雑誌、新聞等メディアでの存在感も際立ち、膨大な宿泊経験という徹底した現場主義からの知見にポジティブ情報ばかりではなく、課題や問題点も指摘できる日本唯一のホテル評論家としてメディアからの信頼は厚い。

著書に「365日365ホテル」(マガジンハウス)、「最強のホテル100」(イースト・プレス)、「辛口評論家、星野リゾートへ泊まってみた」(光文社新書)などがある。


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