Monday, June 13, 2022

メディセオ、医薬品輸送で鉄道へのモーダルシフト拡大 - カーゴニュース

メディセオ(本社・東京都中央区、今川国明社長)は、高い断熱性を備えた専用の保冷コンテナを投入し、7月から首都圏から関西圏への鉄道輸送のトライアルを開始する。埼玉~東北間に続く第2弾となる。医薬品の輸送は安定供給と厳格な温度・品質管理が求められ、これまではトラックが主体だった。鉄道を利用することで、長距離輸送におけるドライバーの労働負荷軽減やCO2排出量削減に寄与できる。社会課題を解決する「物流力」に磨きをかけ、卸としてさらなる差別化を図る。

「物流力」は卸の差別化のカギ

メディパルホールディングスグループの中核企業として、医療用医薬品や医療機器等の卸売事業を担うメディセオ。製造(メーカー)から最終需要者(医療機関・患者)までの「全体最適流通」を目指し、SCM(サプライチェーンマネジメント)を「医療になくてはならない医薬品・診療材料・臨床検査試薬を有事・平時にかかわらず、必要な商品を必要な時に必要な量だけ、安心・安全・便利にお届けすること」と定義する。

同社では全国12ヵ所のALC(Area logistics Center)と呼ぶ大型センターと、得意先に近いエリアをカバーするFLC(Front Logistics Center)を組み合わせた「ハブ&スポーク型」の物流網を構築。FLCの需要の変動をALCが吸収し、在庫を平準化するとともに、必要な商品を適切にエリアに配置。ALCから出荷される商品は得意先ごとに梱包・封印され、タッチ数とリードタイムの最小化を実現している。

若菜 純取締役ロジスティクス本部長によると、「流通業のミッションは、商品が作られてから最終需要者までムダなく、スムーズに届けること。その意味でも『物流』は当社がお客様に提供する最も重要な機能」。卸の“フルライン化”により、商品による差別化が難しくなる中で、差別化のカギとなるのが「物流力」と「営業力」。「物流の革新なしに生き残ることはできない」と強調する。

ALC間輸送で専用コンテナ投入

物流の課題と位置付けるのが、トラックドライバー不足や地球環境問題への対応。ドライバーの労働時間上限規制が厳格化される「2024年問題」を控え、物量の増加やドライバーの高齢化など、流通業全体として輸送手段の確保やコスト増への対応が不可避となる。また、メディパルグループとしてSDGsに貢献する取り組みを進めている中で、温室効果ガスの削減への要請も強まっている。

こうした中、メディセオでは日本貨物鉄道(JR貨物)、日本フレートライナー(FL)、日本石油輸送(JOT)と協業し、埼玉ALC(埼玉県三郷市)から東北ALC(岩手県花巻市)への医薬品の輸送について鉄道輸送のトライアルを2020年から開始。JOTの定温コンテナ「スーパーUR」を活用し、21年2月から定期運行。今年4月には、メディセオの納品用オリコンのデザインをあしらった新造コンテナも投入した。

埼玉ALCは全社のマザーセンターと位置付けられ、全国への商品供給のハブ機能を担う。こうしたセンター間の「移送」は各ALCで備蓄する在庫品の供給がメインで、いわば“急がない”物流だ。鉄道を利用するとトラックと比べてリードタイムは若干延びるが、定時運行により安定した輸送が行えると判断。埼玉ALC、東北ALCはともに貨物駅からの距離が近く、同区間の輸送を全面的にトラックから鉄道に切り替えた。

振動対策、代替輸送手段も整備

医薬品の輸送ではGDPガイドライン(Good Distribution Practice=医薬品の適正流通基準)に沿って厳格な温度管理が求められる。JOTの「スーパーUR」は真空断熱パネルにより高い断熱性を有し、トライアル輸送で温度データの取得や分析を行い、品質を確認。防虫・防鼠の観点からメディセオ専用コンテナとした。また、遅延発生時に夏季でも2~8℃の状態を120時間以上維持できる新たな保冷ボックス「va-Q-proof(バキュプルーフ)」も導入した。

鉄道特有の振動対策については、FLのドライバーと埼玉ALCのフォークマンが緊密に連携し、コンテナに隙間なく積み込み、緩衝材パネルも活用。パレタイズされた商品はストレッチフィルムで固定されているため、これまで破損等の問題は起きていない。今後、細胞性医薬品など特殊な温度管理を要する薬剤の鉄道輸送に向け、防振・制振パレットの利用など振動や衝撃を少なくするための筺体実験を行っている。

鉄道輸送の課題とされるのが、自然災害などによる輸送障害。多くの荷主がモーダルシフトの懸念事項に挙げる。メディセオでは、鉄道の運行ができない場合は、トラック輸送に切り替えて移送を行う代替輸送手段を整備。3月16日に宮城県と福島県で震度6強の揺れを観測する地震が起きた際には、復旧に時間がかかるとみて、チャータートラックを手配し、途中駅から中継して輸送を完遂した。

埼玉ALC~東北ALC間のモーダルシフトでは、従来のトラック輸送に比べてCO2を約8割削減。昨年12月には、協業4社連名により、グリーン物流パートナーシップ会議優良事業者表彰で「特別賞」を受賞した。現在、同区間では5基を運用しているが、第2弾として、7月から首都圏から関西圏へテスト輸送を開始。東京、神戸間でセンター間移送が毎日あり、メーカー物流との共同化など東西便の効率的な運用も探る。

若菜氏はモーダルシフトを進めるにあたって人材育成の重要性も指摘する。鉄道ダイヤに合わせた集荷時間・配達受け入れ時間の最適化を調整するなど、「今後、移送ルートの拡大に合わせて様々な学びが必要」。トラックの荷台とコンテナでは扉の位置やバースの接車方法が異なり、コンテナ集配車とトラック便を交錯させないなどオペレーション教育にも注力し、人材も含めた「物流力」のさらなる高みを目指す。
(2022年6月14日号)

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