JR貨物が開発
モーダルシフト(自動車による貨物輸送を、環境負荷の少ない鉄道や船舶に転換すること)の進展により、鉄道輸送の重要性が増している。
この動向を受けてさまざまな取り組みが行われており、そのなかで開発されたのが
「スーパーレールカーゴ」
である。これはJR貨物がモーダルシフトに応じて開発したM250系電車の愛称であり、従来の貨物列車とは一線を画す
「貨物電車」
である。ここでは、スーパーレールカーゴの開発背景と現状について振り返ってみたい。
中距離輸送の課題
スーパーレールカーゴは1999(平成11)年から、東京~大阪間の輸送時間の短縮を目的として開発された。
当時の宅配便市場では、長距離区間を除き翌日配達が基本となっており、そのため速達性が非常に重要視されていた。しかし、鉄道輸送では発駅から着駅までの輸送時間はトラックと大差ないものの、積み替えに時間がかかるというデメリットが存在した。
その結果、宅配便輸送で鉄道は、翌々日配達地域で用いられるのみで、東京~大阪間のような
「中距離の輸送」
はトラックが主流となっていた。そこで、スーパーレールカーゴの開発によって、東京~大阪間の貨物列車の所要時間を従来の最速6時間40分から約6時間(10%減)へと短縮することを目指した。
この問題解決のための基本構想は、次の3点である。
・高運転速度および曲線通過速度を特急旅客電車と同程度まで引き上げる
・鉄道での貨物の積み下ろし時間を短縮する
・最新技術を導入し、安全性と信頼性を確保する
基本構想に基づき、特急旅客電車と同等の速度を実現するためには、
「車両の重量」
を軽減することが必要だった。この要求に応える形で開発されたのが、両端に動力車を配置する電車タイプの貨物列車・スーパーレールカーゴである。
しかし、スーパーレールカーゴの導入は、新型車両の開発にとどまらず、輸送システム全体の革新も含んでいた。
効率的な輸送の確立
JR貨物の、東京から大阪までの鉄道輸送時間をトラック輸送に匹敵する程度に短縮するこの企画提案に応じたのが佐川急便だった。
佐川急便は開発されたスーパーレールカーゴのメリットを最大限に生かすため、輸送体制の確立に着手した。特に重視されたのは、
「積み込み時間の短縮」
である。荷物を素早く列車に載せることができれば、それだけスーパーレールカーゴの利点を生かすことができるためだ。
この目的を達成するため、東京では荷物を城南店に集約しコンテナに積み込む作業を行う体制を整備した。城南店は、東京貨物ターミナル(品川区)と同一敷地内にあるため積み込み時間は大幅に短縮された。
大阪側では大阪店に荷物を集め、5分以内の距離にある安治(あじ)川口駅に輸送する方式を採った。これにより、列車の締め切り時間間際まで積み込み作業を行うことが可能となり、効率的な輸送が実現されることとなった。
各営業店および中継センターからトラックが出発する時間をダイヤ化することで、佐川急便は確実に荷物を積み込み、配達時間を厳守する体制を確立した。ダイヤ化によって荷物が積み込み拠点に到着する時間を正確に把握し、効率的な作業が可能になった。
専門誌『自動車技術』誌第10号に掲載された記事「M250系直流貨物電車“スーパーレールカーゴ”の開発とその輸送利用」では、ダイヤ確立の過程で解決が必要だった複数の問題点が挙げられている。それらは次のとおりである。
・拠点ごとの終了時間に応じた人員調整
・中継拠点に荷物が一度に集中して到着することを防ぐための対策
・集配車台数およびドライバー人員の見直し
・お客様に対して集荷時間を前倒ししてもらうお願い
・集約センターの人員見直しによる作業時間の短縮
・お客様に発送時間短縮への理解を求める努力
これらのシステム見直しと併せて、佐川急便は専用コンテナと専用トラックを導入し、積載量を増やし、時間短縮を実現した。
スーパーレールカーゴの現在
こうして、2004(平成16)年3月にスーパーレールカーゴが運行を開始すると流通業界での鉄道輸送の認識は大きく変化した。
それまで、トラックが優位と考えられていた中距離輸送の認識が改められたのである。現在のモーダルシフトにおける鉄道輸送への移行は、スーパーレールカーゴの成功があってこそのものといえる。
しかし、その後スーパーレールカーゴの導入は進まなかった。現在も佐川急便は毎日上下1便で貸し切り輸送を継続しているが、他社による採用例は存在しない。M250系電車も新たに製造されず、電車型貨物車の開発も停滞している。
他社がスーパーレールカーゴを採用しなかった理由はいくつかある。
・車両が東京~大阪間の高速化に特化している
・専用のコンテナとトラック導入を前提としておりコストがかかる
ことである。またM250系電車が直流方式で開発されたため東京~大阪間の輸送以外に
路線を広げることが制約されたことも大きい。
スーパーレールカーゴは失敗作だったのだろうか。その答えは
「否」
である。現在JR貨物では、「ブロックトレイン」と呼ばれる、企業が借り上げて運行する貨物列車を運用している。
スーパーレールカーゴは、ブロックトレインの初めての導入例とされている。ブロックトレインは専用のコンテナや車両を使用せず、単に列車全体を借り上げるという運用方式を採っている。JR貨物によれば、ブロックトレインは
「1編成のうち半分以上を貸し切り、往復輸送するコンテナ列車」
と位置づけられている。
モーダルシフトと未来の展望
スーパーレールカーゴに比べて導入コストが低いブロックトレインは、需要が増加傾向にある。西濃運輸、福山通運などの物流企業や、部品輸送にトヨタ自動車が利用している事例も見られる。
また2021年にJR貨物が
「定温貨物列車」
の新設を検討していると報じられている。
これは温度管理が必要な貨物の輸送ニーズに対応するものである。一方、食品会社などは「2024年問題」と呼ばれる運転手不足問題に備え、同業他社との共同輸送を導入する事例が増加している。これらの動きは、将来的な需要拡大が期待される。
スーパーレールカーゴ自体は車両技術として広く普及するには至らなかったが、企業が専用列車を利用してコスト削減と効率化を図る可能性を示した点で、その価値は大きい。
モーダルシフト、すなわち輸送手段の多様化と効率化を進める動きが拡大するなか、専用列車の利用機会も増えていくであろう。
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November 01, 2023 at 03:46AM
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