「空飛ぶ魚」が漁業を変えようとしている。新しい鮮魚流通に取り組むベンチャー企業「羽田市場」(東京都大田区)は全国各地から取れたての魚介類をその日のうちに都市圏の飲食店に届けるビジネスモデルで事業を拡大してきた。流通だけでなく、これまでの価値観を一新して漁業を復活させる挑戦が続いている。
「日本の漁業の維持・発展のためには、今の流通の仕組みを根底から変えなければならない。そのためには価値のある魚介類を適切な価値で仕入れ、提供できる仕組みが必要になる」
羽田市場を経営する野本良平氏(57)は9月、福岡市内で2店舗目となる「超速鮮魚寿司 羽田市場 博多リバレインモール店」のオープニングイベントでこう力説した。九州各地で水揚げされた魚介類を新幹線などで輸送し、即日提供するすし居酒屋だ。
この日は薩摩半島の西側にある甑(こしき)島(鹿児島県薩摩川内市)近海で早朝に水揚げしたキビナゴをフェリーと九州新幹線を使って博多駅まで輸送。また、鹿児島市の魚類市場に水揚げされた生のカツオを直火であぶり、真空パックしたものも同じように店舗に届けられた。
JR九州は令和3年5月から新幹線の空きスペースを活用し、生鮮品や機械部品、書類などを運ぶ「はやっ!便」サービスを提供しており、羽田市場はJR九州と連携。鉄路を利用したスピード輸送を実現した。
キビナゴ、カツオは福岡市内にある系列外の飲食店からも取引したいとのオーダーがあり、早くも広がりを見せている。今後はほかの鉄道の駅近くで水揚げされる新鮮な魚介類を取り扱う予定で、熊本県天草市名産のタコも新幹線で博多に運ばれるという。
卸売市場を通す従来の流通では、魚介類が小売店や飲食店に並ぶには水揚げから最短で2日後で、地域によっては3日かかることもある。魚介類の最大の付加価値は「鮮度」にあり、野本氏は「これまでの流通の仕組みを根底から変えることで差別化できる」と目を付け、このビジネスを展開してきた。
羽田市場は羽田空港内に鮮魚加工センターを構え、全国各地の魚介類を飛行機などで羽田空港に集めて、それぞれの魚種に最適な処理を施し、「超速鮮魚」として首都圏の小売店や飲食店に届けている。自社ブランドのすし居酒屋「羽田市場」のほか、回転ずし大手「スシロー」や高島屋、東急ストアが運営する食品スーパー「プレッセ」で提供されているほか、銀座料飲組合に加盟する個人店などでも取り扱っている。
仕入れは全国の漁師、漁協との直接取引がメイン。現在は全国に約880ある漁協うち、約200漁協と取引しており、日々の取扱量は5~10トンにのぼる。最大の売り物である「鮮度」を保つため、漁師らには魚の締め方へのこだわりを求める一方、物流は羽田市場が担う。港で漁業者からバトンタッチされた後は、トラックや高速バス、新幹線、飛行機など最適な物流ルートを選び、その日のうちに東京に運ぶ。
野本氏は「魚は締め方も含めて手を掛ければかけるほど高い値段で売れる。それは結果的に漁師や漁業者の収入増につながる」と話す。羽田市場と直接取引を始めた結果、売上高が億単位になった漁業者も出ているという。
ただ、日本の漁業は予断を許さない状況にある。漁業に従事する人の数は30年前の平成5年には約32万5千人だったが、令和3年には約12万9千人(4年度版水産白書)まで減少した。
日本の漁業生産は世界有数といわれてきたが、水産大手を含めた漁業者による「乱獲」も原因となり、多くの魚種が減少。資源回復が迫られており、政府は2年12月に改正漁業法を施行し、科学的な資源管理に基づき、中長期的な資源回復を目指している。
資源管理に踏み出したものの、海外で導入されている漁獲可能量を漁業者や漁船ごとに割り当てる厳格な漁獲枠には漁業者の反対が強く、実現できていないのが現状だ。日本では幼魚まで根こそぎ取る漁が続いており、その結果、同じ魚種でも日本近海が突出して資源状態が悪いという。海を休ませれば天然資源はすぐに回復するといわれるが、現実は小さい魚介類まで乱獲し、二束三文の安値で養殖魚の餌などに回す悪弊は今も続いているという。
野本氏は「ノルウェーなどでは個別の漁獲枠や禁漁期間を設けて資源維持に努め、高く売れる魚を短期間に取ることで競争力を付けてきた。水産資源は漁業者のものではなく、国民共有の財産という発想の転換が必要だ」と話し、規制強化の必要性を訴える。
魚介類の流通や漁業者、消費者の意識を変える「空飛ぶ魚」の普及は、世界と戦える漁業の復活に向けた大きな一歩となりそうだ。(千田恒弥)
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November 01, 2023 at 06:00AM
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朝獲れ鮮魚の爆速輸送で急成長 日本の漁業を変える「羽田市場」の挑戦 - 産経ニュース
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