小惑星リュウグウの試料の分析で、砂の表面が窒化鉄に覆われていることが示された。生命材料となり得る窒素化合物が、太陽系の遠方から地球軌道付近まで輸送された可能性を示唆する結果である。
【2023年12月7日 京都大学】
アンモニアをはじめとする窒素化合物は、生命の材料物質や太陽系が形成した時代の物質の化学進化を促す重要な物質だと考えられている。近年の小惑星探査や地上からの観測で、太陽から遠く離れた低温領域に軌道をもつ彗星や氷天体に、アンモニウム塩のような固体の窒素化合物が大量に存在することがわかってきている。一方で、それらが地球の軌道近くにまで運ばれた痕跡は、これまではっきりとは見つかっていなかった。
探査機「はやぶさ2」は地球近傍C型小惑星のリュウグウを探査し、表面の砂を地球に持ち帰った。リュウグウの砂は小惑星の表面で長期間、宇宙空間に曝されて、微小隕石の衝突や太陽風の照射といった「宇宙風化」を経験している。そこで、京都大学の松本徹さんたちの研究チームはリュウグウ試料に見られる宇宙風化を調べて、現在のリュウグウが位置する地球近傍の軌道へ飛来する物質についての手がかりを得ることを目指した。
研究チームが走査型電子顕微鏡で試料表面の微細な構造を観察したところ、リュウグウに含まれる磁鉄鉱が宇宙空間で曝された結果、とても多孔質であることがわかった。さらに、透過型電子顕微鏡を使った断面の観察から、多孔質の層では磁鉄鉱の理想的な化学組成に比べて鉄が多く酸素が少なくなっていることや、磁鉄鉱には含まれない窒素や硫黄が濃集していることがわかった。また、その層に金属鉄と窒化鉄の分布も見られた。
小惑星などの小天体の表面で窒素の鉱物が成長する現象は、これまで全く知られていない。松本さんたちは窒化鉄が成長するメカニズムとして、リュウグウの砂のごく表面が経験した特殊な環境について次のように考えている。
まず、太陽風が磁鉄鉱の表面に打ち込まれることなどにより、太陽風の水素イオンで磁鉄鉱が還元されて金属鉄が生成する。この金属鉄が窒素化合物と化学反応することで窒化鉄が生成したのだろう。窒素化合物としては、反応性の高いアンモニアが有力だ。太陽系遠方の低温領域で形成したと考えられる彗星などの氷小天体には、アンモニアの氷や塩が豊富に含まれている。こうした天体が太陽系の内側にやってきて、天体から放出された塵が地球付近に軌道を持つリュウグウへ衝突することは十分に考えられる。衝突によって塵が気化し、アンモニアに富む蒸気が発生して、表面に暴露された金属鉄と反応して窒化鉄が形成したという推定だ。
一方、リュウグウは彗星と起源のつながりが指摘されている。リュウグウにもしアンモニアに富む岩相があれば、その岩相への衝突現象と岩の蒸発によってアンモニアに富む蒸気が生まれ、窒化鉄が形成された可能性もある。
今回の研究は、リュウグウが現在位置する地球軌道の領域に、これまで考えられていたよりも多くの窒素化合物が輸送される可能性を示すものだ。今後の分析により、窒化鉄に含まれる窒素の起源や、小惑星表面の窒素化合物の正体が明らかになると期待される.
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December 07, 2023 at 07:18PM
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